だから僕は君の下僕になる
だから僕は君の下僕になる
だから僕は君の下僕になる 2
僕の顧客の一人に、凄く気になる男の子がいる。と言っても僕はゲイではない。別れたばかりだから、彼女は『今はいない』けど。
その男の子、安藤君は高校に入学した頃からここに来るようになった。
初めの印象は、素材はいい、けれど野暮ったい、だった。長めの前髪はその涼しげな目を隠してしまうし、サイドだってその前髪のせいでちぐはぐだったし。
変な表現だけれども、闘争心の沸く素材だった。
初回は勿論たまたまだったけれど、二回目以降はずっと僕を指名してくれている。今では闘争心ではなく、僕にとって彼は満足を得られるお客さんだ。
二回目に彼を見たときに思った。涼しげな目に色気が出てきたと。自分より10歳以上も年下の子に使う表現ではないが、セクシーな男だ。
その目で見つめられたら、体が熱くなる女の子は多いだろう。たとえ経験がない子であっても。
それまでの前髪はいわばメデゥーサの目。敢て隠していたのかもしれない。
そんな彼が先月女の子と二人でここに来た。本人達は音がしそうなほど手をふってそう言う関係ではないと否定したけれど、違うな。いずれはそうなる気がしたのを覚えている。
鏡を通して窺い知る彼女の印象はプレーリードッグ。大きなくりくりした黒目。だけど物音にすぐに穴に隠れてしまいそうな…う〜ん、彼女は物音に怯えているんじゃないな、自信のなさか。だから僕がすべきことは堂々とさせること。
そんな事を思いながら、大切そうなその黒髪を少し切ってアレンジした。
気に入ってくれただろうか?あれから一ヶ月が経過した。気になる。
彼女の髪型が?それとも彼女が?
職業がらたくさんの女性の目と表情を鏡越しに見るけれど、胸のあたりが不思議な反響を起こしたのは初めてだった。
堂々との次は僕の手で美しく、かな。
でも、さかりのついた高校生の中に美しくなった彼女を放り込むのは良くないかもしれない。
うーん。
「都築さん、休憩中予約の電話がありましたよ。あさって14:00からアンドウさんとエンドウさん、カットで。」
「14:00ね、了解。」
2時?、ああ試験でも終わるのかな。
予感がする。彼女はきれいになっている。
僕の手によってではなく、彼によって。
さて、どんな髪型にしようか…