過保護な関係

 

     

1 過保護なつながり



—過保護—


辞書で引いてみたら『子供などを大事にしすぎること。また、そのように育てられること。』とか『overprotective』なんて書いてある。


確かにその通り。


わたしの一つ上の兄はまさしくそうやって育てられた。そして、そうやって育てられた兄は、わたしに対して同じことをする。


小さい時の記憶って何歳まで溯って思い出せる?

わたしは断片的に思い出せるのがせいぜい小学校に入る手前くらい。

そして思い出すことと言ったら、全部お兄ちゃん絡み。怖いくらい。


だって、お兄ちゃんに何かあるとお母さんもお父さんも騒ぎ立てるんだもん。


確かお兄ちゃんが小学校に行き始めた頃、家の中で滑って転んだ。

そしたらお母さんが大騒ぎして、しまいにはお父さんに電話して、二人で付き添って病院へ行った。

別に何でもなかったみたいだけど。


お兄ちゃんが高熱を出したときも、わたしと弟にはパン屋で買ってきたサンドイッチが手渡されて、二人は付きっきりだった。


わたしと弟だって風邪を引いたり、熱をだしたことはある。でも、お母さんもお父さんも『寝てれば治るから』と付き添っていたことなんかない。これって、もしかしてお兄ちゃんばっかりえこひいきじゃない?




我が家にはまだいくつかのえこひいきネタがある。

その一つが学校。


うちはおじいちゃんもお父さんも弁護士。しかも、それなりの数の弁護士さんがいる事務所を営んでいて、大きな会社の顧問弁護士なんかもしているらしい。


だからなのかは知らないけれど、お兄ちゃんはすごく有名な私立の学校に小学校から通っている。でも、わたしと弟は小中と公立に通った。あ、弟はまだ公立中学校に在学中。


しかも、お兄ちゃんは塾だかなんだかの合宿にもよく行ってる。

どうしてなの、同じ兄弟なのにこの差は。


かと言って、弟は勉強しなくてもいい存在という訳でもない。お父さんは弟にこんな成績じゃあ法学部には入れないぞ、とよく言ってるから。

そのくせ、お兄ちゃんに法学部云々の話はしたことがない。



で、これはえこひいきになるのかどうか…、兄弟の中でおにいちゃんの見栄えはすごくいい。

実は、この春からわたしもお兄ちゃんと同じ高校に入学したんだけど、お兄ちゃんの人気を窺わせる色んな噂を耳にする。



「なーなせ、どうだった?」

「うん、ま、」

「ふーん、で、どうするの?」

「どうしようかな?むしろわたしでいいのか相手に再度確認したいところかな。」

「へぇ、そうなんだ。あ、有賀(ありが)先輩だ!」

ちなにみわたしも有賀。でも、わたしの会話相手だった浜本寿々(はまもとすず)が発した有賀先輩という言葉は、正面から歩いてくるわたしの兄、有賀悠作(ゆうさく)を視界に捉えたから、出た言葉で


「こんにちは、有賀先輩。」

寿々の声に色がつくなら、その色は勿論ピンク。そして、ハートも浮かんでいそう。


お兄ちゃんも、優しく微笑んでいつもななせがお世話になってますなんて、親もどきな台詞を言ってくれちゃってる。

過保護だなぁ。


で、寿々はさっきわたしの身に起きたことをお兄ちゃんに説明してる。


「寿々ちゃんだっけ、いつも色々ありがとう。本当に助かるよ。」

お兄ちゃんは寿々に兄弟のわたしだって見惚れるような笑顔を向けてから、更に言葉を続けた。


「ななせ、相手には僕からちゃんと言っておいてあげるから安心しなさい。」

じ・えんど、そんな言葉が頭に浮かんだ。


高校に入ってから、何故か三人の人に告白された。みんなそれなりにいい人で、わたしにはもったいないくらい。でも、みんなお兄ちゃんがご丁寧にお断りしてしまう。


両親に過保護に育て上げられたお兄ちゃんは、わたしに対してすごく過保護。だけど、最近はわたしの恋愛事にまで首を突っ込んで、過保護ぶりを発揮している。

わたしだって弟を可愛がってるけど、同じようなことがあったら絶対そんなことはしない自信がある。

お兄ちゃんは変だって。


しかも、人伝いに聞いたところによると、その人たちの教室に出向いて『うちのななせは世間知らずだから色々と迷惑を掛けてしまうかもしれない。それに僕が男としてのスタンダードだと思っているけど、君、大丈夫?』と言ってくれちゃっているらしい。


誰もお兄ちゃんがスタンダードなんて思ってないよ。むしろ、上玉でしょう。

身内の癖に、何を言ってるんだって思う人なんかいないくらいの上玉だよ。



帰り道、寿々に散々文句を言ってみたところで

「有賀先輩に頼まれていることをしただけだよ♪」

とかわされるだけ。

妹の色恋沙汰をなんでお兄ちゃんが管理するわけ?

わたしの彼氏1号は、いつになったら魔人お兄ちゃんを退治してくれるんだか。

あ〜あ、先は長そう。


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