過保護な関係
過保護な関係
2 朝
「ななせ、起きろ。」
「ん、お兄ちゃん。おはよ。」
「ほら、目を閉じない。ちゃんと起きろ。」
ん〜、眠い。
でもここで起きないと。じゃないと…
これって兄弟間のスタンダード?、っていうかわたしと弟の間ではそんなことないから、兄と妹間でのスタンダード?
何がかって言うと、うちではお兄ちゃんがわたしを起こしてくれる。しかもアップで。
更に、ちゃんと起きないとベッドからお兄ちゃんに抱き起こされてしまう。
過保護っていう次元を超えているような気がムチャクチャするんだけど…
そうそう、去年までは違う学校に通っていたからそんなことはなかったけど、今年の4月からはお兄ちゃんと一緒に通学している。これも何だか不思議。だって、去年まで弟と最初から最後まで一緒に通学したことなんてなかったから。
「ななせ〜、急ぎなさい、お兄ちゃん、待ってるわよ。」
それに、親、当たり前のようにお兄ちゃんの過保護ぶりを助長してるよ。
玄関では、身内のわたしすらクラッときそうなお顔でお兄ちゃんがお待ちかね。
「ななせ、今日は帰りにお兄ちゃんと一緒に買い物に行ってきて。」
「買い物?、お母さん、わたし一人で大丈夫だけど。」
今までだってそうだけど、自分一人で買い物くらいは当たり前できますけど。なんだってお兄ちゃんと一緒に…。
「ななせ、迎えに行くから放課後は教室で。」
お兄ちゃんの顔は優しそうだけど、言葉的にはそうじゃない。絶対を意味している。
「じゃ、二人とも行ってらっしゃい。」
そして今日も仲良く兄弟揃って学校へ。
この時間の会話はもっぱら私のことに集中する。昨日の授業は何を習ったかとか、分からないことはないかとか、クラスであった出来事とか。すっごい過保護。でも、考えてみるとお兄ちゃんのクラスのこととかはあんまり聞いたことがない。
だけど、今日はいつもと少し会話が違った。
「来月は誕生日だな。」
「あ、うん。」
「ななせも16歳か…」
感慨深げなお兄ちゃん。なんか父と娘の会話っぽい。思うんだけど、お兄ちゃんの方がお父さんよりよっぽどお父さんらしいよ。
「そう言えば、今日の買い物って何?」
「後でな。」
結局お兄ちゃんは、今日何を買いに行くのか教えてくれなかった。
毎朝のことだけど、学校に近づくにつれ、同じ制服の人たちに声をかけられる数が増えていく。あ、わたしじゃなくて、お兄ちゃん。なんだか友達が多いんだよね。で、女の人でお兄ちゃんに声をかけるのは綺麗な人ばかり。自分に自信がありますって感じの。
でも、誰もお兄ちゃんの彼女じゃないらしい。
不思議…。
そうなんだよね、お兄ちゃんに関する話はよく耳にするけど、彼女がいるとかその手の話は聞いたことがないんだよね。
もしかして、女嫌い?
「有賀くん、おはよう。」
そして今声をかけてきたこの人は滝沢さん。美人な上に優しそう。
「おはよう。」
こんな人に声をかけたれたらたいていの男の人はにやけると思うけど、お兄ちゃんは違う。普通に朝の挨拶を返すだけ。
そう返されてしまうと、それ以上取り付く島がないようで、滝沢さんも困り顔。かわいそう…。
こんなことを繰り返しながら学校に着くのが私の毎日。
更に、お兄ちゃんの過保護は止まることを知らない。学校の中で迷子になるつもりはないんだけど、なんと教室近くまで送ってくれちゃう…。だからわたしの陰での呼ばれ方は『箱入り』。
こうなるって分かっていたら、違う高校を受験したのに…。