過保護な関係

 

     

15 約束




聞いたことがある、誰が話してくれたかは忘れちゃったけど。

どんなに仲がいい兄弟でも、結婚するとなかなか昔のようにはいかないって。みんなそれぞれに配偶者もいるし、生活もあるから。


でも、仮にお兄ちゃんがいつか誰かと結婚して、いままでわたしをかまってくれていたようにその誰かを…、それこそムリ。イヤ。考えたくない。


「悠作くん、わたし、悠作くんが他の人と結婚とか、わたしの周りからいなくなるなんて考えられない。わたしの傍にいて欲しいの。」

この答えは必然的にお兄ちゃんとの結婚を意味している。


「ななせ、その言葉が何を意味するか理解してる?」

「うん。」

「それは僕をすごく期待させるってことも知ってる?」

「ううん。」

…、ななせに男心を理解しろって方が難しいか。ま、いいや。ところで、今日は僕の部屋にこのままいるといいよ。二人で色々話をしよう。」

「このまま?」

「そう、このまま抱き合いながら。」


箱根は夏でも夜は案外涼しい。東京からの距離はそんなに離れていないのに。

だからこうしてお兄ちゃんに抱き締められているのは、そういう意味でも心地いいけど。


…どうしよう。でも最後にはお兄ちゃんの優しい顔に負けてしまう自分がいる。


それからは、変な雰囲気(あ、えっちな意味での雰囲気。)になることもなく、昔の話を色々した。わたしとお兄ちゃんの間には本当に沢山の思い出があって話が尽きない。


正直言って、わたしが忘れてしまったようなこともお兄ちゃんはよく覚えている。それだけ、いつも見ていてくれたんだってことが伝わってきた。


気が付けば朝で、お兄ちゃんの顔が目の前。

心臓にちょっと悪い状況だけど、寝顔、かわいい。


寝顔を見られたことは沢山あるけど、寝顔をみたことは今までなかったかも。



わたし、この人の奥さんになるんだ、将来



「おはよ、ななせ。」

…おはよう。」

「これって僕の理想の起き方なんだけど、ななせは?」

…」

「まあいいや。昨日はいい約束もできたし。」

「いい約束?」

何かしたっけ?約束なんか…、全然記憶にないんだけど。


「お、急がないと、7時からだよな、朝食。筒井さんはああ見えて結構厳しいから。それと、ななせも一回は自分のベットにもぐってそれなりのベットの姿にしておいて。まあ、婚約者なんだからここで寝ててもおかしくないけど、イヤだろ、何にもしてないのにそう思われるのは。」


何にもしてないって、キスしたくせに。あれってお兄ちゃんにとっては何にもしてないになっちゃうの?


朝食まで20分少々、お陰で何の約束をしたのかそのときが来るまで、わたしの頭からは『約束』という言葉自体消え去っていた。


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