過保護な関係
過保護な関係
14 選択肢は…
「お兄ちゃん、もっと抱っこ。」
「なんでお兄ちゃんに戻るかな。」
だって、と反論をしようとしたら、もうムリという呟きと共にお兄ちゃんの顔がみるみるアップに。
そして、今度は目の前がコマ送りのように進んで、…止まった。
ん?
なに〜〜〜
時間にして数秒、わたし達の口の皮膚と皮膚が重なった。
「ななせ、今度こそちゃんとどうして欲しいか言ってごらん。」
「その前に、お兄ちゃん、今、何をした!」
「ななせが、素直に言葉を話すためのおまじない。キスともいうけど。」
お兄ちゃんはイケシャアシャアと答えた。
「ファーストキスだったのに…。」
「うん、そうだね。」
「色んな希望があったのに。」
「まあ女の子はシチュエーションとか色々好みがあるとは思うけど。だけど、なにより大事なのは好きな人とちゃんとできるかどうかだよ。」
「………。」
「まあ、あんまり甘い雰囲気はなかったか。じゃあ、」
そう言ってお兄ちゃんは耳元で『好きだ』と囁いた。なんだか不思議な感じが耳元を貫くと同時に、もう一度唇が。
さっきよりはもう少し長く重なって(たぶんそうだと思う。)、お兄ちゃんがにっこりと優しいいつもの表情を浮かべた。
「満足した?」
そんな質問のされ方は困る。
「ななせは肝心なところで、いつも口をつぐむんだな。ま、いいさ。でも、これだけはちゃんと答えて、僕を兄ではなく、一人の男として好きになれる?」
「一人の男の人として?」
「ああ、でないと婚約が苦痛になるだけだろ。僕達はこの先兄弟ごっこの延長をするわけじゃなくなるんだから。」
「婚約…」
「ななせ、大事なことだからよく聞いて。もし、ななせが僕との結婚を取りやめたいのなら、そのときは断ればいい。僕も、周りの大人もそのことをとやかく言うことはないから。ただそのときは、ちょっと早いけどお互いのために、ななせの前からいなくなるようにするよ。」
「いなくなる?」
「そ、そして二度と現れない。」
「二度と…」
お兄ちゃんともう会えない…、そんなのイヤ、ダメ。
そう思ったら自然にわたしの手はお兄ちゃんに撒きついてありったけの力で引き寄せようとしていた。
「ダメ、いなくならないで。悠作くんのことを一人の男の人としてどう思っているのかはまだよく分からないけど、いなくなるのはイヤ。」
「でも、ななせ、僕がななせの傍にいる為には、分かっていると思うけど、たった一つの選択肢しかないよ。」
たった一つ。結婚。
わたしは今までお兄ちゃんをそういう対象でみたことはなかった。じゃあ、そういう対象としてみたら?