happy end
happy end
後編
その笑顔が素敵。これが多くの女子社員の意見。確かに優しそうな笑顔だとは思うけど、何かが違う。
それがわたしの杉山哲哉感。
そんな杉山さんを偶然先輩の結婚式で見た。しかもその表情は会社とは全く違って。みんなが言うように、素もいいのに今日は正装なんかしているからかっこ良さ5割増しで。
思わず誰かが写真を欲しがるかもなんて思って、こっそり数枚撮ってしまった。更には、一緒にも。
プリントアウトして、その人をもう一度見るとその普段とは違う笑顔は悲しそうだった。そして、その写真の笑顔に惹かれた。いつも見ていた会社のでもなく、この写真のでもなく、本当の笑顔を見てみたいと思ったから。
数日後、杉山さんが写真とお菓子のお礼にと夕食に誘ってくれた。
バレンタインデーの三倍返しより倍率が高いお返しだ。だからそれは悪いと断ると、また作り笑顔であの写真とお菓子にはその価値があったと付け足した。
「じゃあ、食事中その作り笑いをしないと約束してくれるなら。」
「松本さんはどうして僕の顔を作り笑い呼ばわりするかな、」
「だって、わたしは自然な杉山さんの表情をみちゃったから。」
「分かったよ。約束する。じゃあ、明日19時くらいに、この先のカフェで落ち合おう。」
「美紗、あの杉山さんと何を話してたの?」
「別に大したことじゃないよ。」
「でも、仕事でも何の接点もないじゃない。」
目聡く立ち話を見られたようで、その後同僚とお局から質問攻めを受けた。
最終的にはたまたま通りかかったときに、つまらない質問を受けて結局答えられなかったから長い立ち話になったという嘘で落ち着いたけど。
杉山さんは約束通り食事の時に作り笑いをしなかった。意識してしなくできるんだから、普段のは本当に作り笑いなんだ。新婦さんの前ではどうだったのかな。新婦さん…、
「どうして別れたんですか?」
「いきなり核心に触れるんだね。」
「あ、すみません。」
「大人の事情。でも彼女のためにも僕のためにも、浮気とかじゃないんだ。」
杉山さんはそれ以上は何も言ってくれなかった。でも、とても悲しそうな顔だった。
「杉山さん、デザート食べましょ。甘いものは、」
「あのさ、この間言うべきだったんだけどあれっぽっちの甘いものじゃ全然癒えないんだよね。」
そうだよね。良く分からないけどその大人の事情とやらで別れて、しかもその彼女の結婚式だもんね。
じゃあ、何がいいのかな?
「たまにこうして誰かと素の自分のまま話をしたり出来ればいいんだけど、」
「そうなんですか、」
「でも、なかなか無理だから。」
「どうしてですか?」
「会社では素を出してないし。学生時代の友達には彼女とのことは克服したことになってるから。」
「そっか、それじゃあ難しいですね。あ、でも、待ってください。わたしならできるかも。だって、その、新婦さんとの事情も知ってるし、何となく素の杉山さんを見た気がするし。」
それを聞いて杉山さんが吹き出して笑った。
ずるい、そんな笑顔を見せるなんて。
「そうしてもらうと助かるけど、松本さんの誰かいい人に僕は恨まれたりしない?」
「そんな人いませんから!」
「じゃ、お願いしようかな。」
その後どう話が転んだのか分からないけど、わたしは素の杉山さんと食事をしたり出掛けたりするようになった。更には素のままの姿で、夜を一緒に過ごすようにも。