告白・後 |
桂木実耶、そいつは知らないうちに入り込んできた。 ある日呼び出された場所へ行くと告白された。今までそんな素振りはなかったから正直に答えた『そういう対象で見たことはない』と。 桂木は『そうだよね。』と言うと、いつもの屈託のない笑顔でじゃあまたね、と去っていった。 次の日学校で顔を合わすと、昨日のことはなかったかのように手を振りながら近づいてきた。 ただ声を掛けるだけ。何を話すわけでもない。でもイヤじゃない。 けど、『それだけかよ、昨日のは何だったんだ。』と毒づく自分がいる。 部活の時もいつもと同じ。何だったんだ、この前は。 そんな桂木にまた呼びだされた。今度は何なんだ。 そう思いながら前回と同じ場所へ行くと、また告白された。 思わず『ごめん、もういいのかと思っていた。』と言おうとすると、『ごめん』の三文字で桂木はオレの言葉をきり、去っていってしまった。 数日後顔を合わせた桂木はやっぱり笑顔で…、理解できない。 そして理解できないことはもう二つ。 今日の部活の班は、桂木とは同じでない。なのに、違う班の桂木によく目がいく。他の男と何か話しているのがムカつく。なんだ、それ。 桂木とオレは仲がいい。だからそういう対象で見る必要がなかった。彼女が居るときも、居ないときも、桂木とはいつも同じ。 この距離がいい。この距離でいい。そう思っていた。 色々考えてみても、桂木との距離は変わらなかった。 そんなことがあったことすら、記憶の片隅に消えていったころ、再度呼び出された。今回は何なんだ。前回、前々回と同じ場所へ行くと、また告白された。三度目。普段の笑顔とは違うその表情、何かを言うとまた去ってしまいそうだから無言で見つめた。何度も瞬く目、寒さで赤みが差す頬、好きだと思った。 それを言葉にしようとしたとき、桂木はくるっと向きを変え去っていった。 何かの儀式なのか?好きとここで言うのは。 ふと考える。 そう言えば、桂木が告白するのはいつも月末。そして、呼び出しをされた日の実験内容を思い出し、その考えが正しいことを再認識する。 「25日の放課後、また裏庭に来てくれる?」 頷くことだけで返事をすると、それを見た桂木は嬉しそうに去っていく。そうか、一ヶ月たったのか。 今度は分かる。オレは桂木から25日の放課後告白される。 そしてその日、予想通り告白された。 前回と同じように、その表情・仕草の全てを見ていたくてただ眺める。 オレは桂木をどうしたいのか?その答えは簡単。男、しかも十代の男だったらそれが当然。 でも、今の二人の間にはそんなつながりはない。 桂木は儀式を終わらせ去っていく。 儀式に変化を起こし、二人の間につながりを作るには? そもそも桂木の意味する好きってなんだ?ただ気持ちを伝えればいいものなのか…。分からない。 次の日、オレの目は少し離れたところからも桂木を捉えた。そして、自分から声をかける。今までは桂木から。今日はオレから。 気付いただろうか? 小さな変化。 けれども確実な変化。 そして気付く。桂木が本当にオレを好きなことを。 注意して声を掛けているのに、桂木はオレより先に声を掛けてくることが多々あるから。 確実なつながりではないのに、今までの彼女とのつながりよりもある強さ。 5度目となるとオレには余裕が出てきた。けれども、目の前の桂木は緊張しきっている。 慣れないやつだ。 気持ちを伝えるだけでいいのか? 好きのその先は? 結局儀式はいつも通り。 「氏家、今日暇?」 「部活。」 「な、おまえ科学部なんて地味な活動、よく続くよな。」 「……」 「その無言で睨むのはやめろよ。そう言えば、科学部と言えば8組のカツラちゃんも入ってるよな。」 「カツラチャン?」 「ああ、カツラちゃん。オレ中学んとき同じクラスでさ、よく話してたんだ。結構可愛いから高校で彼氏できると思ってたけど、出来た?」 「さあ、でも、いないと思う。」 「その根拠は?」 「さあ、」 「ま、宜しく言っておいて。木月くんが会いたがってるって。じゃ、また。」 別に義務はないが、木月の伝言を桂木に伝えると、にこやかに頷いた。その頷きは何だ、と言いたい自分がいるけど、そうは言えない現実がある。 桂木は可愛い…、木月がそんなことを言っていた。顔はそうかもしれない。でも、本当に可愛いのはその性格。あの、告白したときの顔。 欲望が囁く、自分のものにしなくてはいけない、と。 6度目は言葉はいらない。ただ、抱き締めて伝えよう。 けれど2月25日前の部活を桂木は堂々とサボった。 どうする気だ。 そして可笑しなことに、24日に裏庭に呼び出された。 不思議に思いながらそこへ行くと、目の前の桂木はとんでもないことを言った。 オレのことをきれいさっぱり忘れ、諦めたいという趣旨の言葉。 訂正しなくては。桂木にその必要はないと。 そして、自分の思うところを告白した。 言葉が返ってこない。桂木はこういう状態をいつも味わっていたのか。 じゃあ、言葉を発せさせよう。 好きだとまた言って欲しくて顎に手を掛ける。 桂木の緊張が伝わる。 本当はこのまま唇を合わせたい。けれど、そうしてしてまったら言葉が聞けなくなってしまう。 だからワザと桂木を逆上させるように「何期待してんの?」とからかった。からかわれているのに、最終的にはオレに好きだという言葉を使ってしまう桂木がかわいい。 今まで告白させ続けた穴埋めを、これからしっかりしてあげよう。 後・end おまけ(R-15)。 付き合いはじめて二ヶ月が過ぎた。最近ではカツラが学校帰りにうちに遊びにくるようになった。 「カツラ、コウノトリがくちばしに赤ちゃんの籠をくわえて、ドアをノックするって何歳まで信じてた?」 「氏家、本気で聞いてる?」 「すっげー本気。」 「うちではそんな話はなかった。」 「じゃあ、赤ちゃんはどうして出来るか知ってるか?」 「ばっかじゃない。知ってるよ。精子と卵子が結合して、受精卵になって子宮に着床して育てば、生まれる。」 「見事な保体的回答。じゃあ、作り方は?」 「………」 「知らないんだ。」 「知ってるけど、言いたくない。」 「じゃあオレが教えてあげようか。」 「いい。」 それでも、耳元でこっそり作り方を教えてあげると、カツラの顔が真っ赤になる。 「キライ。」 「ホントに?」 「………」 黙ってしまったカツラにキスをするのはとても簡単。 キスの合間に手を胸に伸ばすと、体が強張る。 でも、ここまで。 さすがに母さんも弟もいる家では、その先は難しい。 唇を解放し、肩で息をしているカツラに尋ねる。 「本当にオレのことキライ?」 潤んだ目のカツラは素直に答える。 「……好き。」 「正直ないい子だね、カツラは。オレ達科学部にいるけど、いい子のカツラは生物の勉強もしないとね。人間の男女の生殖器に関して、近いうちにちゃんと。」 「…氏家のエッチ。」 「なんで?」 「…なんでも。」 「そう、じゃあ、そうさせてもらうよ。」 いつになったら本当に勉強できるのか…。残念ながら今はキスの合間に手が胸を彷徨う程度。 でも、カツラの告白のように6ヶ月はかからないだろう。 おまけ・end |
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