過保護な関係

 

     

10 悔し涙




今回の滞在に合わせて、本宅からコックさんとメイドさんが一人づつこの別荘に来ていた。結果として、わたしとお兄ちゃんとコックさんとメイドさんの4人がここにいる。二人きりでの滞在でないのは喜ばしいことだ。


前までだったら二人っきりなんてこと気にもならなかったけど、今となっては…。


コックさんは本宅で見習い中らしく20代前半な感じ。見習い中とはいえ、お料理はすごく美味しかった。


メイドさんは50代のお兄ちゃんがまだ日向悠作というか、ゆうたくたんだった頃を知っているおばさん。勿論白いフリフリレースが付いたエプロンとかのメイド服は着ていない。メタボリックなお腹とは縁がなさそうな、すらっとした人懐こい笑顔が可愛い人だった。


「それでは明朝は7時の朝食にしましょう。」

筒井さん(メイドさん)はわたしたち二人の生活が怠惰にならないよう、主要なことの時間は仕切ってくれるみたいで、その顔の印象とは異なり色々なことをテキパキとこなしていく。


「筒井さん、最後に悪いんだけどハーブティーを二人分お願い出来るかな。出来れば、気持ちが落ち着くやつ。」

「畏まりました、悠作様。」

筒井さんにハーブティを頼んだ後、お兄ちゃんはわたしに視線を移し明日からのことを少し話そうと、優しく微笑んだ。


いつも思う。そして、いつもわたしには学習能力がないことを感じてしまう。

お兄ちゃんの優しい顔をみるとわたしからはその後当分否定の言葉が出なくなってしまうから。


少しして筒井さんがティーポットと共に戻ってきた。

「カモミールをメインにブレンドしたお茶ですから、気持ちがリラックスすると思いますよ。」


筒井さんが言うとおり、ポットから注がれるお茶の香はとても心地よい。重厚なこの建物の雰囲気といい、本当に気持ちが安らぐ。七夕の日から約一ヶ月、こんなに安らかな気持ちを感じたことがなかったことに今更気付いて、自分でもびっくりしてしまう。


「どう、気持ち、少しは落ち着いてきた?」

「え、あ、うん。」

「ななせ、ずっと僕に言いたいことがあったんじゃない?顔を見てれば分かるよ。」

うそ、お兄ちゃんはわたしが何を言いたいかも知ってるくせに。その上でわたしから言わせようとしている。


「ずるいよ、お兄ちゃん。お兄ちゃん達は何だって知ってたくせに。わたしは、本当のお兄ちゃんだと思って今まで、今、まで、ひっく、」

「泣くなよ、ななせ。おまえに何も言わなかったのは悪いと思っている。でも、重要な話だから、内容が内容なだけにあの日を選んだんだ。」

「でも、ど、ひっく、うして、」


結局わたしはまともに話すことが出来ないまま泣き続けた。お兄ちゃんはずっとそのまま泣き止むの待っていてくれて、だから泣き止もうとしてるんだけど、不思議と涙は止まらなくて。


泣き止む、こんな簡単そうなことが出来ない自分が子供に思えて、なんだか悔しくなって、尚更涙が溢れかえってしまった。



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