過保護な関係
過保護な関係
「はあーーーーーー、」
誰にも聞かれてないと思うと気兼ねなく溜め息がつける。
今回の旅行に合わせて洋服も身の回りの小物も、お母さんが言うところの『日向様に恥ずかしくないよう』新しく買ったものをわざわざ持ってきた。…確かにどれも新しい。
だけど、実際にはどうなんだろ?わたしに与えられた部屋には天蓋付きのベットがあるし、衣類をしまうタンスはアンティークな素敵な模様が彫り込まれたものだし。日向様云々よりも何よりも、すでにこの部屋に対して恥ずかしい。
正直言って、お兄ちゃんとわたしが結婚するっていうのは身分が違い過ぎる気がする。
—コンコン—
—カチャ—
「ななせ、荷物はしまい終わったか?」
「うん。」
「じゃあ少し散歩にでも出掛けよう。」
「うん。」
「なんかあんまり楽しそうじゃないね。」
「そ、かな?、そんなことはないよ。」
「じゃあ、下で待ってるから。」
そんなことはないんだけど…、でも、どうしたらいいのか自分の道を見失っているよ。
わたしだって今まで色んな人を好きになった。告白したことはないけれど。
でも、今回は今までと事情がまったく違う、だって結婚を前提に付き合っていく訳だし、その相手はお兄ちゃんだし。
それに、お兄ちゃんの家はこんな別荘が色んなところにあるくらいお金持ちだし…。
「お兄ちゃん、お待たせ。」
「あれ、そんなワンピース持ってなかったよな。」
さすがお兄ちゃん。わたしの持ち物だってお見通し。なのに、なんでわたしの気持ちを分かってくれないの?
「うん、お母さんが買ってくれたの。日向様に恥ずかしくないようにって。」
「なんか有賀のお父さん、お母さんにまで随分気を使わせちゃったな。」
そう言ってお兄ちゃんはわたしの手を取ると、散歩へ向かった。
それは兄弟のとき、何処かへ遊びにいくときのものでもなく、人ごみではぐれないようにお兄ちゃんを中心に3人で手をつないだものとも違った。
箱根って都心から近いわりには、全くそれを感じさせない。昼下がりのこんな時間にも涼しい。
「あ、そうだ、日向の父と母は8月12日くらいにここに来るらしい。諸事情で3泊くらいしか出来ないけど、ななせと過ごすのをすごく楽しみにしているから。」
十分涼しいのに、お兄ちゃんの言葉にわたしの背筋は寒気を感じた。
お兄ちゃん、今なんておっしゃいました?、わたしには今日から3日間は二人っきりだからって聞こえたんだけど…。