過保護な関係

 

     

3 疑惑




「ななせ、有賀先輩、来たよ。」

「うん、じゃあね、寿々。」

放課後、勿論お兄ちゃんがうちの教室に来た。

寿々をはじめとして、そこら辺にいた女の子達が注目する。というより嬉々とする。

わたしも当事者じゃなければ、喜んでいたのかな?



「お兄ちゃん、どこへ行くの?」

お兄ちゃんから出た地名は、確かに買い物をするには百貨店がたくさんある場所。

で、何を買うのかは聞いたところで教えてもらえずじまい。



「今日はななせの誕生日のプレゼントを見に来たんだ。」

貴金属売り場で言われた一言。

有賀家では、16歳になった娘に貴金属を購入するっていう習慣があったんだ、なんてぼんやり思ってみる。


誕生石ということで、赤いルビーが付いた指輪がいくつかわたしの前に並べられた。


「ななせには、まだ大きな石よりはデザインが可愛いほうが似合うな。」

そう言いながら、お兄ちゃんが見立てていく。


なんとなく予想はしてたけど、やっぱり最終決断はお兄ちゃんが下した。

とっても綺麗な赤で、ピジョンブラッドって呼ばれている石らしい。小さいくせに、結構なお値段で…、本当にこんなの買っていいのか正直不安を感じた。


だけど、買い物は指輪だけじゃなかった。

ワンピースに鞄、そして靴。

それも、決して安いものではないものが買い揃えられていく。さすがにここまでくると『どうして?』という言葉が頭の中に浮かんできた。


お兄ちゃんは凄い。どうしてか分からないけど、お母さんやお父さんよりわたしの顔の表情から全てを理解してしまう。


「ななせの誕生日に食事会をする。それなりに格式のあるレストランだから、ななせが気後れしないように一式買い揃えることになったんだ。」


ふーん、食事会かぁ。でも、こんなに買って帰ったら、お母さん絶対怒るよ。だけど、お兄ちゃんが決めて買ったから、怒らないのかな…。



怒られないとは思ったけど、お母さんから発せられた言葉は意外だった。

玄関で出迎えて、にっこりとしながら『お兄ちゃんに見立ててもらえて良かったわね。』とのこと。


なんで?

お兄ちゃんて美術の成績がムチャクチャいいとか?

あ、でも、美術はどうかしらないけど、成績がいいのは事実。


「ね、お母さん、こんな洋服きて行くお店ってどんななの?哲(さとる)は当日どうするの?」

「お店…」

「あ、お母さん、ななせにはばらしちゃったんだ。誕生日に食事に行く店が、ちょっとばかり格式が高いから、それように服や鞄を揃えたって。」

「まあ、そうだったの。」

「哲は残念だけど、その日は留守番なんだ。その分寿司を取ることになってるから大丈夫。」

「そうなんだ。」


なんかお兄ちゃんとお母さんの会話には違和感があった。何がって聞かれると困るけど、何かが引っかかる。


どうしてなんだろ?



back   index   next