過保護な関係

 

     

4 七夕、全ての終わり、全ての始まり





わたしの誕生日は覚えやすい。なぜって、7月7日だから。

いわゆる七夕。


だからか、毎年織姫と彦星が会えるかどうかが気になってしまう。

1年に一回しか会う機会がないんだから会わせてあげたいよね。


でも…、いまにも降り出しそうな空。天の川は雲が厚くて見ることなんか出来そうにない。


姿見の前で服装チェックをしていたら、ノックと同時にお兄ちゃんの声がした。


「支度終わったか?」

「うん。」

予想はしていたけれど、入ることに対する許可の言葉はなくてもお兄ちゃんが入ってきた。でも、こんなことにはもう慣れきっている。


「おかしくない?」

「おかしいことなんて、全くない。きれいだよ、ななせ。」

普通兄弟で、こんな台詞を言うことってあるのかな?、でもお兄ちゃんの優しい笑顔は本当に素敵。


「お兄ちゃんも素敵。」

だから思わず口から出てしまった、本当に無意識のうちに。


お兄ちゃんは服を褒められたもんだと思って、なにやら色々言っているけど本当は違う。服が素敵なんじゃなくて、素敵なのはお兄ちゃん。

でも、さすがにそんなことわたしには言えない。


支度が終わったということで、お兄ちゃんに促されるまま階段を下りて玄関へ行くと、既にタクシーが来ていた。


お母さんはお父さんと合流してから向かうので、タクシーにはお兄ちゃんとわたしだけが乗るらしい。


洋服、鞄、靴、アクセサリー、それにタクシー。なんだか、本当に特別な夕食のような気がしてきた。




タクシーがわたし達を運んできた場所は、どうやら料亭。残念ながら、今まで料亭に来たことがないので、100%そうだとは断言できないけど。


だけど、出来ればフランス料理とかイタリア料理とかの洋物がよかったな。わたしの誕生日なんだから、わたしに何料理がいいか聞いてくれればいいのに。


お店の中は、というより、建物の中は古い日本家屋で黄色っぽい優しい光に黒光りしている柱とか廊下が不思議な光を反射させている。

感覚で分かる、ここってかなりお高いお店。だから哲は留守番だったのかな。

って言うか、お父さん、こんなところで4人で、大丈夫?


和服を着たお店の人の案内で、その襖が開けられるとそこには見たことのない品の良さそうな夫婦が一組いた。


そして次の瞬間、わたしの頭はいまだかつてないほどにフル回転をしなくてはいけなかった。


「お久しぶりです、お父さん、お母さん。」


お父さん、お母さん?、はっ?、お兄ちゃん、何を言ってるの、この人達、初めてみる人だよ。




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