過保護な関係

 

     

8 良くても、悪くても




「悠ちゃん、お願い、教えて。」

屈辱的、だけど慣れたらどってことはない。言うだけだから。


結局、唇へのキスはどうやったって出来なかった。でも、お兄ちゃんの助けなしで、物理と化学と数学を乗り越えることなんてもっと出来そうにない。


そこで、お兄ちゃんが提示した妥協案。

それが、頬へのキスプラスこの言葉。


しかも、一つ聞く毎に一回しなくてはいけない。唇だと1時間有効なのに…。


結局テスト開始日まで、わたしは何回お兄ちゃんの頬にキスしたことやら。ついでに言うと、二人のときは悠ちゃんとなら呼べるようになってしまった。


お兄ちゃんが言うには、昔のわたしは舌足らずでいつも『ゆうたくたん』と呼んでいたとか。


そう言われれば、そんなこともあったような気がする。





テストはすごく良かった!と言わないまでも、前回よりははるかによかった。ま、かなり下からのスタートだから、それ以上下がるよりは上がるほうが楽なのかもしれないけど。


返ってきた結果を見て、お母さんなんか『太陽が西から昇るかも』なんて言ってるし。

だけど、その後の言葉にわたしはこれがお兄ちゃんによって仕組まれていたことだと分かった。


それは


「これなら、ご褒美に日向(ひゅうが)様からご招待を受けている旅行へ行ってもいいわね。」


日向、それはお兄ちゃんの本当の苗字。ちなみにお兄ちゃんの本当の名前は日向悠作、誕生日は12月14日。

赤ちゃんが生まれる日数の十月十日を誤魔化すために、4月3日生まれということになってはいるけど。


そして、わたしは成績が良くても『ご褒美』に、悪くても『約束通り』に旅行へ行くことになっていたわけだ。


で、成績が前よりはマシなわたしが行く旅行先は、山。

山というより、日本でもメジャーな温泉地。夏でもまあまあ涼しいからすごしやすいんだって。


日向家はそこに別荘を持っている、しかも温泉付き。更には、そういう場所って通常『別荘』がいくつも建ち並んでいるんだけど、違うんだって、日向家は。


お母さんの話によると、広大な敷地に洒落た建物が建っていて、日常をきれいさっぱり忘れさせてくれるとのこと。


そう言えば、この旅行には、その、あれだ、あれは付いてくるの?

お兄ちゃんとの深い関係


お兄ちゃんは好きよ、本当に。でも、良く分からない、ゆうたくたんを好きなのかどうかは。


きっと、昔のわたしは本当にゆうたくたんが好きだったんだろうけど。



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