雇われ女優の久我山さん

 

     

6 



ドキドキする。色々なドキドキがあるけど、すごく久しぶりな気がする。

背中、温かいけど、ゾクゾクしてきた。それに、どうしよう、この状況。


だって、ミキさん…



「寒くないか?」

「あ、うん、でも、もう、」

「こうしていると俺も温まれる。」

言おうとした言葉は、遮られた。もしかして、釘をさされた、それとも本当に温かいから?


だけど、この体勢は心臓にも悪いし、わたしの諦めにも悪い。だって、引き返せなくなるよ、他の人がいるって分かっているのに。


「久我山って会社で見る限りあんまり感情ないと思ってた。話したら違ってたけど。今日だって、突付いたらムキになったし。お陰で簡単にうまいものにありつけた。」

「別にムキになんて、」

「でも、ゴメン。本当はちゃんと順を追ってくつもりだったけど…」

信濃さんはそう呟くと、腕に力を込めた。だけど、『でも、ゴメン』のでもとゴメンは何に対して?順を追うって、何の順?


頭が追いついていかない、信濃さんの発する言葉に。

だから、何の言葉もでなくて…。ただじっとしていた。


「いい?」

何が?なんて聞く間はなかった。言葉と同時に信濃さんの腕が一瞬だけ弱まって、次の瞬間にはこたつの横に寝かされていたから。


これって、この先って、…ってことだよね、たぶん。

さっきまで、背中で感じていた温もりが今はない。そして、目の前には信濃さん。


この間、どうしよう。きっと信濃さんも勢いでこうしてしまったことを後悔している?


やだ、何だか切なくなってきた。


「久我山、本当にここまでは考えてなかった。だから、持ってないんだ。あるか?」

わたしは首を小刻みにぷるぷる振った。そんなことをする予定が最近なかったから、本当にないし。

「じゃあ、最後外に出すから。」

もう『何を』なんて聞く必要はない。『最後』という言葉がこれから何をするのか表しているから。



信濃さんの手は何の躊躇もなく、目的地に置かれた。

「大きいよね、カップは?」

いきなりそんなこと聞くの、この人は。

「いいよ、言いたくないなら。手と目で確かめるから。」

そう言うが早いか、上着のボタンは外されて胸のところをひろげられた。


「谷間がスゴクそそるんだけど。でも、今は大きさを確かめないとな。」

信濃さんの手は何度もブラの上からわたしの胸を弄って気持ちを高めていく。


気持ち良い。

もっと触って欲しいし、もっと気持ちよくして欲しい。


「久我山、腰動いているけど、どうかしたか?」

楽しそうに悪戯な笑みを浮かべる信濃さんは、ただ胸だけをブラの上から形が変わるほど強く揉んだり、かと思えば先端のところを布ごときつくつまみ上げていた。だから、わたしの一番敏感な場所は触って欲しくて、腰が動いてしまう。


どれくらいそうしていたのか分からない程、わたしの息は上がっていった。そしてようやく解放されたと思ったら、今度はブラのホックを外され、じっと見つめられた。見つめられるだけ、触ってもらえない。電気はついたままだから、結構恥ずかしい。でも、信濃さんに見られて面映いんだけど、不思議と興奮してしまう自分がいる。


「見られているだけなのに、立ってる。って言うより、舐めてくれってそそり立ってる感じだな、ここ。舐めて欲しい?どうして欲しいかちゃんと言葉にだしてみ。」

うそ、そんなぁ、それって酷い。


「お願い。もっと、気持ちよくして。」

「何をどうやって。ジッと視姦してもらいたいのか?見られているだけで、ここまで立つんだからな。」

そう言って、左の乳首をつままれた。


「あぁ、んぅ、ん…」

「どうかした?そんなやらしい声だして。」

「お願い、」

「そんな表情でお願いされると堪らないな。すごいイヤらしい顔なんだけど。」

「あん、ん、はぅ、お願い、もっと、」

なんて言われようとお願いするだけしかなかった。



結局わたしの体は信濃さんをしっかり何度か受け入れて、快楽を得た。その間、ミキさんなんて名前は一度も頭を掠めることなく。

今回は他に女性がいるって知っていてこうなってしまった。弁解の余地はまるでない。なのに、勝手に傷つこうとしているわたし。そして何の罪もなさそうな寝顔の信濃さん…。


信濃さん、起きたらどうするんだろう。

どんな言い訳を口にするのか。ちょっと怖い。だから、朝陽が窓から差し込めても、じっとして起こさないよう努めた。


「…寒い、」

寝ぼけているのか、寒さを訴えながら信濃さんはわたしを抱き寄せた。その仕草があまりにも慣れているように思える。いつもはミキさんと一緒に寝ているから?


「………久我山、」

いつもと違うことに気が着いた信濃さんの表情が一瞬止まる。そりゃあそうだよね、隣に寝ているのがわたしじゃあ。


でも、まるでそうするのが当然のように、『おはよう』と囁かれ、キスされたのには驚いた。これって、わたしがミキさんじゃなくて、久我山厚美だって知っていてしてるわけでしょ?どうなってるの?この人、どんだけ経験がある大人なの。




back   index   next