雇われ女優の久我山さん

 

     

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どうなっているのかは良く分からないけど、翌週も、その次の週もわたしたちは金曜の夜から土曜、もしくは土曜の夜から日曜の一泊二日を共に過ごした。


そして今週末も一緒に過ごす。最初は生理だからと断ったのに、一緒にいたいからそんなことはどうでもいいと言われた。




「腹、痛くないか?」

食後にコーヒーを淹れてくれた信濃さんが優しく尋ねる。

既に湯沸しポットの使い方もインスタントコーヒーの置いてある場所も、更にはわたしが好きな濃さと牛乳量も覚えている。

「大丈夫。もうピークは過ぎているから。」

事実そろそろ終わり。だから買い物に行って、しっかりご飯を作ったんだけど。


「今度は無理してメシ作らなくていいから。ピザ取ればいいし。」

今度は…、それって次の生理の時期を言ってる?この人もいい大人なんだから、女の人の生理の周期くらい知ってるでしょ。次って約1ヶ月後なんだけど…。


そして夜が深まれば深まるほど、どうしたらいいのか悩みも深くなった。

ベッド。

今まではセックスありきだったから、そのまま体を求めあってベッドに溶けるだけだったけど、今日は?今日はどうする?一緒に寝る理由がない。所詮は彼女の役を依頼されただけだし、たまたまセックスするようになっちゃったにすぎないから。


「やっぱ腹痛いのか?眉間にしわ寄ってる。」

「あ、ううん、大丈夫。」

ホント、大丈夫。どうやって寝るか悩んでいるだけだから。

これ以上心配してもらうのは悪いから、ひとまずニコッと笑いかけてみた。

すると、信濃さんはこたつをでて、わたしの背後にまわって抱き締めてくれた。そして、前にまわされた手は何度もおなかを擦ってくれる。俺の前では無理はするな、なんて言いながら。

別におなかが痛かったわけじゃないのに、そうされると落ち着いて何かが解き放たれるから不思議。


「早いけど、寝るか?」

「うん。」

悩む必要はなかった。信濃さんは当たり前のことのようにわたしを促しベッドへ向かった。


体温を感じる距離で他愛無い話を繰り返し、そのうち言葉ではなくキスを繰り返し。本気で錯覚を起こしそうになる、自分達の関係を。なんで信濃さんはミキさんがいるのに、わたしともこんなふうでいられるんだろ。この人は今までの男の中で最悪なのかも知れない。


「厚美、まさかこんなに好きになるとは思わなかった。」

キスの合間に真剣な眼差しでこんなことを言うなんて…反則でしょ。


「あん、は、うん、」

「胸だけでも、気持ち良くしてやるよ。好きだろ、この大きな感じやすいおっぱいをめちゃくちゃにされるの。」

信濃さんの手は的確にわたしの体を攻めてくる。わたしだって、まさかこんなにわたしの体を知られてしまうなんて思わなかった。

だから、わたしももっと信濃さんの体を知りたい。


「ちゃんと出来ないから、だから、ね?」

正直言って、これ、苦手だった。でも、今は何の抵抗もなくわたしの手は信濃さんのを扱きながら口を近づけようとしている。


「いいよ、別に。無理に 」

「違う、したいの。信濃さんに気持ちよくなってもらいたい。上手くできないかも知れないけど。」

今までだってしたことある。だけど、自分からすすんでするのは初めて。理由は簡単、そう、怖いくらい簡単に分かる。


先端を口に含むと、信濃さんの小さな吐息が耳をついた。体の中心、ううん、本当はこれを入れてもらいたいところがその声に反応する。

もっと。

もっと、その声を聞きたい。

もっと、自分自身が高まりたい。

聞こえる声、そして表情を伺いながらとにかく舌を沿わせたり、口全体で覆って舐めたり、自分でも驚くほど没頭した。


「厚美、も、ここまでで、」

信濃さんの言葉は彼の終わりが近いのをわたしに伝えている。意識はぼんやりとしているのに、最後までこうしたいと思った。だから、より深く、より強く咥え込んだ。


「う、ぅん、」

信濃さんの最後の呻き声はわたしの背筋を貫く程刺激的だった。気付けば、わたしを離そうとしていた手は結果として頭を固定してその行為を深くするものに。だから精液は喉元へ放たれた。


鳴ったのはわたしの喉。

何度か、全てを飲み干すために。


「ゴメン。もう、」

今度こそわたしを離そうとする信濃さんを制して、萎え始めたそれを清めるようにもう一度丁寧に舐めあげた。男の人の精液を飲み干したうえに、そのままもう一度フェラをし始めるなんて、自分でもびっくりしてしまう。


その後は、本能のまま、挿入はしないものの暫くの間わたしたちは絡み合った。



「ごめん、無理させて。こんなに抑えきれなくなるなんて。」

「うれしいけど。たくさん信濃さんを感じられたから。」

これは本当の気持ち。


「でも、無理して飲まなくていいし、そもそもああいうときは口から出していいから。」

「いや。欲しかった。」

「だけど、どう考えたってうまいもんじゃないだろ。」

「分かんない。そういう対象のものじゃないでしょ。ただ、欲しかったから。」

「せっかく早く寝かそうと思ったのに、俺ってダメなヤツだよな、厚美のことになると。」

「そうだね。」

ホント、ダメな人だね、ミキさんいるのに。


「明日はどっかに昼飯食いにいくか。」

「え、二人で?」

「他に誰がいるんだよ。」

「でも、万が一誰かに会ったら、」

「会社では既にそう思われてるんだから、問題ないだろ。」

あると思うんだけど、会社じゃなくて…


結局次の日はイタリアンのコースをご馳走してもらった上に、何故かペンダントを買ってもらった。


これって彼女役への報酬?、それともセックスまでしていることへの見返り?

ミキさんという存在を知っているだけに、ちゃんと役割として喜んでいるわたし。俄か女優なのに、頑張っている、すごく。

…だけど、本業じゃないからちゃんと弁えてないと、本当の自分と彼女役の自分を混同しそう。


怖い。自分を見失いそうで。

そしてもっと怖いのは、信濃さんとのこの関係を失うこと。



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