寒さと後悔

 

伝える、伝わる



心が痛いけど、誰もが通る道だったら私のように間違えてはいけない。興味本位でしてしまうなんて。

オブラードに包まなくたっていいじゃない。



「アオちゃん、要とこれから先にセックスって考えられる?急にすごいこと言っちゃったけどひかないで。でも、考えられるか考えられないかで要をどういうふうに好きか分かってくると思うの。」

…考えられなかったら…」


こっちで来たか


「アオちゃんにとってそこまでの人ってことじゃないかな。だったら遅かれ早かれ双方の気持ちに隔たりが生まれると思うの。要は男だから、アオちゃんを求めると思うし。だから早めに別れたほうがいいと思う。」

その時は何がどうあっても私がちゃんとしてあげる。今までの全てを話してでもね。


「別れるともう脇田君とは話すことができなくなるんだよね?」

「同じクラスだから話すことはあると思うけど…、極力話さないようになるんじゃないかな。」

「そんなのイヤ。」


ちょっとびっくり。この大人しいアオちゃんが、要絡みのことでこんなにはっきりと言葉を発するなんて。


「あのね、お話だけするんだったらお友達で十分じゃない。でも、好きな人とは違うと思うんだよね。私も上手く説明できるか自信がないし、そもそもそんな資格はないんだけど…。そうだ、アオちゃんは要と手を繋いだことはある?恥ずかしがらないで教えて。」

…何回かはある。」

「そのときイヤだった、どんな風に思った?」

「ドキドキしたけど、なんか嬉しかった。手を伝って脇田君の体温を感じられて。」

「そっかぁ、じゃあ、キスは?」

……!」

そんなに驚くことなわけ、ってことはあの要がまだってことよね。


「してないんだ。」

「どうして分かるの。」

「なんとなく。」

なんとなくも何も、その反応で分からないわけがないじゃない。


「すごいね、そんなことまで分かっちゃうなんて。」

「ん、まあね。そんなことより、不思議なもので好きな人に対しては、手を繋ぐともっと他のところも触れたれたり触れたいと思うみたいなの。きっと相手を強く感じたいと思うんだろうね。でね、唇は特別で、相手の唇の感触がすごく鮮烈に伝わってくるの。キスにも種類があって映画で外国人たちが挨拶みたいに交わす軽いのから、官能的なものまで。知ってると思うけど。」

「うん、具体的には知らないけど。映画とかでみるあれでしょ、食べられちゃうみたいな。」

「そ、あれ見てどう思う。」

「え、どう思うって、」

「いやらしいと思う?」

「双方が合意なら、きっと愛し合っているんだと思うけど。」

「そっか、あれって、あ、深いキスね、あれは、唇を感じあっているだけじゃなくて舌も使って愛までを感じあっているんだと思うの。で、男の人は大抵盛り上がってそのままセックスじゃない?」

…うん。」

「セックスって、私が思うにはよ、勿論職業でしてる人もいるけど、愛を感じあうものなんじゃないかな。」

「愛を?」

「そ、だってセックスの前にはお互いが気持ちよくなるように、高まるために相手の体を愛撫するんだから。愛撫って愛しく撫でるって書くじゃない、読んで字の如しだと思う。例えば、嫌いな人に胸を触られたら痴漢行為だと思うけど、好きな人だったら気持ちが高まるわけでしょ。気持ちが高まったところで、最後にするのがセックスなんだから、愛しく撫であうことよりも、もっと愛を感じられるってことじゃないかな。」


えーい、もういいや、かなりムチャクチャな理論だけど。


「そっか、ホントはね、最初の質問YESなの。ちょっと恥ずかしいから、答えを濁したけど。」

え、こんな理論に納得して、本音を話してくれちゃってるの、アオちゃん!!


「今はまだそんなすぐにとは思ってないけど、脇田君に求められたら断る理由はないし。でも、やっぱり考えると怖いし、恥ずかしい。なんていったらいいのかな、事実としてその行為があるのは分かるけど、自分がって考えると想像がつかない。」

「そっか、でもそのときがくれば恥ずかしがってる暇はないと思うし、怖いって感情より他の感情が支配してくれるよ。それと、最初は痛いよ。」

「沢ちゃん、それって、沢ちゃんは、け 」

「そだよ、アオちゃんが思うほど怖くはないよ。それに、相手のことが本当に好きなら、きっと良かったって思えるよ。さ、戻ろうか。」


一つ分かったことがある。アオちゃんは頭の片隅で要とのこれから先にあるであろうことをちゃんと理解していた。ただ、要が求める速度と、アオちゃんの考えている速度はスポーツカーと田植機ほどの時速差がありそうだけど。


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