色づく11月、月曜日

 

深耕


望は毎回僕のオーダーに難色を示すものの、最終的には受け入れる。そこが可愛いところだと思う。

今日は葵を連れ立って昼飯に出かけた。僕としては、そこで望がオーダーを遂行したものと考えている。




「それが最後?」

「え、あ、うん。」

望が葵にどんな話をしたのか分からないが、葵の心がここにあらずなのは分かる。

今日、僕にはこれといってすることは特にない。けれども、葵のそばにいたいがゆえにこうして適当なことをしながら残っている。


以前、望から言われたことも気になっているので極力ポツンとおいておきたくなかった。


「随分寒くなったから温かいものでも飲んで帰ろう。」

「あ、うん、いいね。」

「でも、金がないから安いとこで。」

というわけで、ありきたりのファストフード店で彼女はミルクティ、僕はコーヒーをいただく。

弁解するわけではないが、こういう場合は値段ではなく、誰と一緒かがとても重要だと思う。


面白いことに葵は飲み物にも素直で、大好きなミルクティを口にすると顔が綻ぶ。

ずるいようだけど、僕はその時を待っていた。


「何か考え事?」

「え、どうして。」

「いつも見ているから分かる。」


その一言に当たり前ながら照れる葵。そして、気を落ち着かせるために、ミルクティを口に運ぶ。けれど、なかなか落ち着かないのか、口を開かない。



「もし俺に話して気が楽になるようなことだったら何でも話して。葵の役に立ちたいからね。」

それに間違えなく望から何か話されているはずだしね。


「大した、ことじゃ、ないの。」

残念ながらミルクティでそこまで綻ばなかったらしい。


けれど、僕としは葵がそっち方面を意識し始めたことに心の中が綻んだ。

望はやるべきことをやった、後は僕がどう事を収集するかだろう。重要なのは。











約束、だから葵は来る。けれど、申し訳なくなる天気だ。雨脚が強いだけじゃなく、時折強風。


だけど、どんな天気であろうと、葵に会えるのは嬉しい。そして、こんな天気なのに、今の今まで断る電話がなかった。

それは、僕同様に葵も楽しみにしてくれているからと捉えていいのだろうか。


「要、車だしてあげよっか?」

「いいよ、後で高くつくから。」

「いいわよ、たまには姉の無償の愛情を見せてあげるから。」

姉貴が不気味な笑顔を浮かべている。

というか、この人こそ、どこへも行かないのか…。


「どっか行くついでとか?」

「うんん、わざわざ車をだすんだけど。」

やはり雨風の中を歩かすのは…、ここは不本意だけど姉貴の申し出をとるしかないか…。


姉貴の運転は女の割には豪快だ、と思う。自分自身で運転したことがないから、何とも言えない部分はあるが。

バスロータリーに物怖じせず、ささっと止めて、葵を後部座席に乗せると快調に滑り出した。


それに葵に遠慮する隙を与えない『バス来るから、乗っちゃって。』発言は見事だった。そして、今もまるで自分の友達のように会話を成立させている。僕の存在は?


「葵ちゃん、玄関前で一度止めるからそのまま降りちゃってね。要、着いたら後はお願いね。」

「楓さん、ありがとうございました。」

「いいのよ、お礼なんて。したくてしてるんだから。なんせ、可愛い弟の彼女だしね。」


余計な一言を。葵が緊張するだろう。

「姉貴…」

「だって、事実でしょ?」


…はい、」

えっ、姉貴の質問に肯定で返したのは僕ではなく、葵だった。


間も無くして、車は玄関前に到着。姉貴が車庫入れするため、束の間の二人きり。


「さっきはゴメン。うちの姉貴、言いたいことは止められない人だから。」

「それより、良かった?私、つい、楓さんの質問に答えちゃったけど。」

「良いも、悪いも、正直言って嬉しかった。葵に肯定してもらえて。」

周りの豪雨とは正反対に、僕らの周りだけ光に照らされている気分になった。


男友達がくるとたいてい漫画を読んだり、ゲームをしたり、ついでに怪しいDVDを交換しあったり、ま、そんなことをする。けれど、今まで女の子が来たときは、目的のことをして家族が帰ってくるといけないからとかなんとか言って帰ってもらってた。言葉を変えるなら、やることをやったらそこで終わり。



じゃあ、葵とは?


やることはやってない。

でも、今日は一歩だけ進もうと決心していた。


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