寒さと後悔
寒さと後悔
証拠
ちなみに4時間目の授業もあまり集中ができなかった。
そして、この間と同じ場所で、今まさにアオちゃんがなにやら言葉を発そうとしている。
一体何?
「…あの、沢ちゃん、キスって何?」
「えっ、キスって、あの、ケイ、アイ、エス、エスって綴るやつのことだよね?」
「うん。」
今更小学生じゃあるまいし、何を言い出すのかと思いきや、アオちゃんは至って真剣。
ここでこうしてお昼を一緒に食べることになった理由は…、あの鬱血。
アオちゃんの質問と鬱血の理由は?…そういうことね。
「おでこや頬、それに実際されたら退くけど手の甲とかにするやつ。ポピュラーなのは唇。でも、もっと性的な意味合いでは耳とか、体のいたるところ、例えばそこにすること。」
そう言って、彼女の鬱血していたであろう場所をつっついた。
「分かる?」
「見えちゃったし、話の流れ的には…合ってるでしょ?」
「…うん。」
「そっか、濃厚なキスをしたんだ、要と。」
そう言うとアオちゃんは真っ赤になって俯いた。
お弁当に箸を何度か運び、無言のまま考え込んでいる。
会話がないままお弁当を二人で食べ続けていると、アオちゃんのお箸が不意にとまった。
「恥ずかしいけど、言わないと聞けないから…、だから話すけど、…キスって唇がどこかに触れるだけじゃなくて…、そのぉ、気持ちいいことなんだな、って思ったの。少なくても私はそう思ったんだけど、脇田くんは違ったみたい。」
「違った?」
「うん、私変だったのかな?脇田くん、キスが終わったらちょっと怖い顔をして何処かへ行っちゃった。きっと、そんなキスをするとは思ってなかったからつまんない下着だったし。きっと男の人はレースとかでちょっと透けているようなのがいいんだよね?」
レースの透け透けはあなたにしては行き過ぎだと思うんだけど…。
それに怖い顔ねぇ…。
「あのね、男の人は、その、性的に興奮すると、保体でならった例の状態になるの。」
「例の状態?」
やっぱはっきり言わないと駄目だよね。
「勃起。」
「ぼっ 」
「声、大きいってば。」
「だって、」
「だから、要はきっとアオちゃんと濃厚なキスをしすぎて興奮しちゃったんだってば。さっき見えた胸の辺りのキスマーク凄かったし。そんなに興奮しちゃったら、その、そこに溜まった精子をだしたくなっちゃったんじゃないかな。あくまでも推測だけど、さすがにアオちゃんの前で射精はできないから、トイレとかで出してきたんじゃない?」
「沢ちゃんて詳しい…ね。」
こんなことで詳しいとか言われても、ねぇ、
ま、要に味方するのは不本意だけど。
「要はアオちゃんがすごく好きだから、だから途中で止められないくらい興奮しちゃったんじゃない。大丈夫、特に変なことはきっとなかったよ。」
アオちゃんの疑問は何十パーセントかは解消されたようだった。ついでに、可愛い下着でも買いに行こうと誘うと、嬉しそうに頷いた。
これって、要のためにお膳立てしてる?
いや、可愛い下着を友達と買いに行くだけだよね。
『アオちゃんから要がしたキスに対する質問を受けた。初めてだから色々不安に思うことがあったみたい。でも、もう大丈夫。それと、要、我慢できなくなってトイレで抜いたでしょ?よ、若いね。』
普段の報復を込めて、要冷やかしメールを送ると、すぐに返事は返ってきた。嫌味とかは全くない短いメール。
『ありがとう。』
それだけ。なんとなく分かる。若いに対するありがとうじゃない。
きっとアオちゃんの不安が取り除かれ、もう大丈夫になったことへのお礼。
要は本当にアオちゃんが好きなんだ。自分のことでもないのに、わざわざお礼のメールを送るなんて、この証拠(メール)はとっておこ。