教えてもらいたいのは。

 

     

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『重要なのは中身』

多少表現は違っても良く耳にするフレーズ。

そして聞くたびに思う、嘘だろって。

これ程本音と建前過ぎる表現を俺は知らない。

 

 

「本条君、良ければ付き合って。」

良くないから付き合わない。これが本音。けれど人間は建前で生きている。

だから…

「今は誰とも付き合う気がないんだ。悪いけど、ごめんね。」

「じゃあ、友達としてもっと色々話してみたいから、メアドだけでも。」

うざい…。でも、我慢して丸く収めないと、面倒なことになる。

「メールってしないんだ。もらっても返事をしないのは失礼だから、止めておくよ。ごめんね、急いでいるから、じゃあ。」

最低限の時間は割いた、はず。彼女のプライドも傷つけていないだろうし。

 

 

けれど、一体どうして俺となんか付き合いたいんだか。

昔はあんなにいじめたり、嫌っていたくせに。

 

 

小学校卒業までは、女男と呼ばれよくからかわれていた。

漢字が示す通り、女の様な男ということで。

中学の頃は中世的で気持ち悪い。それが陰でこそこそ言われていたこと。

言わないまでも、気持ち悪いことには変わりないようで、避けられることもしばしばだった。

幸い、卒業する頃には言葉で何か言われることはなくなったが、この外見のお陰で楽しいことなんて何もなかった。

重要なのは、一体何なんだろうか。

 

 

 

「あの、いくら言われても、付き合う気はないから。」

「何お高くとまってんだよ。」

「嫌だってば、止めてよ。」

「先生、この教室でいいですか?」

「くそっ、」

「…先生は?」

「うそ。大丈夫、立てる?手を貸す?」

「いい。」

「そ、じゃあ。」

「待って。」

「やっぱ、手、必要?」

「ううん、ただ、わざわざ手を貸す為だけに来たの?」

「それ以外に何がある、この状況下で他に。」

「そうだね。あ、ありがとう。お礼、まだ言ってなかった。」

尻もちをついていた彼女は立ち上がると頭を下げて礼を言った。

 

「帰るけど、門出るまで一緒に行く?さっきのやつと鉢合わせたら困るんじゃない。」

「あっ…、」

「その鞄だけ、他は?」

「ない。これだけ。」

「じゃ、行こうか。」

「もしかしなくても、本条君?でいいんだよね。」

「あ、うん、で?」

「わたし?わたしは、瀧野菜奈。」

「ああ、」

そっか、彼女が瀧野菜奈なんだ。だからか。

 

「えーと、その反応は…、わたしにまつわる何らかの話を聞いたことがあって、本人は今初めて認識したってことだよね。」

「そうなるな、正解。そっちは俺と名前を認識してたんだ。」

「名乗ったけど、瀧野菜奈って。」

「ああ、ごめん、瀧野さん。」

「この噂は本当だったんだ。本条君て女の子に興味ないって。きれいな子や可愛い子が軒並み玉砕したんでしょ。こっちは、事実か。」

「そんな噂が流れているんだ。あと、彼女達の誰も玉砕はしてないんじゃないかな。嫌いとかじゃなくて、ただ断っただけだから。」

「あとね、わたし、自分の知らないところで流れている噂嫌いだから言うけど、本条君はもしかしたらゲイなんじゃないかって。中世的でキレイな顔立ちだから、そんな噂が広がるんだろうけど。」

「は?何それ。ノーマルだけど。」

「噂ってそういうものでしょ。わたしはいつも根も葉もない噂に苦しめられているから、自分でそれを判断するまでは信用しないけど。」

「じゃあ、瀧野さんは俺をノーマルだって思ってくれるんだ。」

「本人がそう言っているんだもの、そうでしょ。」

「ま、多くの人が真実より面白おかしいものを取るなか、本人の発言ていう証拠もない真実を信じてくれてありがとう。それと、独り歩きしている噂を本人に教えてくれてありがとう。」

「助けてくれたことへのささやかなお礼。」

「しかし困ったな、女の子に興味がないのは本当だからどんどん流れて欲しい事実だけど、ゲイは困るな、やっぱ。」

本気にしたやつから告白でもされたら、それこそ面倒くさいことになる。

 

「…瀧野さん、付き合うことにしない?」

「は?」

「さっき拒否ってたのって、瀧野さんは噂と反対で男が嫌だからだろ。俺も噂は真実を確かめるまで信じないことにしているから、今、本人に確認させてもらっているんだけど。」

「嫌っていうか、噂ありきで近づいて来る人にろくな人がいないだけ。」

「特定の人間とそれなりの期間付き合えば、噂、収まるんじゃない。」

「でも、だからってわたしと本条君が付き合うのは違う気がする。」

「違わないよ。お互い本気じゃないから都合がいい。」

「どういう意味?」

「言った通りだよ。聞こえてくる話からすると、瀧野さんは男をとっかえひっかえなんだろ。けれど、本当の瀧野さんはそう思って近づいてくるやつに迷惑をしている。」

「うん。」

「でも、瀧野さんを知らない女子の目から見たらどうだろうか。事実とは違うとんでもない噂はどんどん大きくなって、駆け足で広がっていく。高校に入ってまだ三カ月ちょっと、どう考えても本当の瀧野さんを知っている女子なんて一握りいるかいないか。だから、噂は止まりようがない。女子の嫉妬って怖いんじゃない? 面白くないだろうね、みんな。しかも、男が出来ない限り、勘違い野郎に呼びだされて毎回うざい思いをする。自分自身を他の人の視線で見てみれば?それも男女両方の視線で。俺の申し出は好都合じゃない?」

「でも、」

「あのさ、中学の時とは違うよ、男女の力の差は。告られるだけならまだしも、一人でいるとまた勘違い野郎にレイプもどきをされそうになるかもよ。」

「…」

「名案だと思う。付き合おう。先に言うと俺を好きになんてならなくていい。正しく言うと、付き合っている振りをして欲しいだけなんだ。」

「振り?」

「ああ、そうすれば俺はゲイ疑惑を払拭出来る。瀧野さんだって変な思いあがり野郎に近づかれなくなる。だから都合がいいだろ。」

「そうかもしれないけど…、例えば、本条君に急に好きな人が出来たら、どうなるの?」

「ないない、あり得ない。俺、当分女の子には興味もたないと思うから。別の言い方をするなら、瀧野さんと別れるまで、誰も好きにならないよ。あ、でも、逆はありだよ。誰か好きな人が出来たら、すぐに教えて。別れるから。良い条件じゃない。どう?」

「どうって言われても…」




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