絶対条件

 




「神田さん、今日はお時間ありがとうございました。とても素晴らしいお嬢さんですね。見合いとは言え、楽しい時間を過ごすことが出来ました。心から感謝します。わざわざ、こんな限られた時間にお越しいただいて。」


別れ際の尚哉の社交辞令に、父の機嫌は思いのほか良くなった。見合い時間の短さに、部屋に戻ってきたときの顔つきは不機嫌そのものだったが。耶恵はあんな男だけれど多少は気遣いが出来るのかと、通り過ぎる景色を見ながらふと思ったのだった。


家に着くと土曜の夕方だというのに、弟二人はリビングにいた。

「おかえり、何か土産ないの。」

母親が二人にケーキの箱を見せると、弟達は口々にコーヒーと紅茶と言った。

「ちょっと待ってて。わたしも耶恵も着替えてくるから。お父さんはどうしますか?」

「少し仕事をするから、部屋へコーヒーを持って来てくれ。」

神田家のちょっとした一コマ。けれど我が家を良く表していると耶恵は思った。仲の良い弟たち。どこかへ出かければ何か土産を買って子供達、否、弟達を喜ばせようとする母。家でも仕事と称し自分の部屋からあまり出てこない父。

あの田辺という人と結婚するということは、今まで見てきた景色を自分も繰り返すということなんだろうか。



「胡散臭い笑顔に、異常なまでの耶恵への話しかけ。お陰で晩飯不味かった。」

「今日はわたし、かなり作ったんだけど。」

「じゃあ美味かった。な、見合い、うまくいったんだろ。親父がああだったってことは。」

「さあ、正直うまくはいってないと思うけど。」

耶恵もなんとなく見合いの席でのことを愚痴りたかったのだろう、克実に何があったかそっくりそのまま話したのだった。


「何だよそれ、何様なわけ。」

「田辺様だよ。弱冠32歳でもうじきどっかの大きな会社のグループ会社で社長になるんだって。」

「社長が何様だって言うんだよ。」

「そうだよ。」

「耶恵、結婚なんかしなきゃいいじゃん。ずっと。」

「わたしもね、そこはどうでもいいんだ、実は。ただお父さんにとっては、嫁にいけない娘がいるより、道具として使える娘なわけでしょ。遅かれ早かれ結婚させられるよ。部下をあてがってでも。」

「俺が大学卒業したら、一緒に家、出よ。」

「なんで克実とわたしが。」

「仲がいい兄弟なんだから。あのさ、俺…、ちょっと色々あって凹んでるから、今日、一緒に寝ていい?」

「へ?」

「昔、よく、何かあったり、台風来たりしたら、一緒に寝てくれたじゃん。」

「あの時と、今じゃあ、」

「同じだよ、ねーちゃん。」


行き過ぎたスキンシップにノックなしで部屋に入ってくること…、いくら言ってもなかなかなおらない克実。けれどなおすように強く言わない耶恵にも責任はあると耶恵自身分かっている。結局のところかわいくてしょうがない弟を本気で叱ることなど出来ないのだから。そして克実の口から出た久しぶりの『ねーちゃん』。21歳にもなって、やっぱりかわいい弟なんだと思わざるをえない一言だった。

「いいよ、わかった。じゃあ11時過ぎにまたおいで。」

「うん。」

「ノックはしなくていいから。伸哉に気付かれるとイヤだし。」

ノックをして入ってきたことのない克実にそう言うのは些か変な気もするが、敢えて耶恵はそう言った。


それから小一時間たったころ、克実が再びやって来た。

「わたし、床で寝るから、克実はベッド使っていいよ。」

「何言ってんの。一緒にってこの部屋じゃなくて、同じベッドでだろ。」

「ムリだよ、克実大きくなったんだから。昔みたいにはいかないって。」

「大丈夫だよ。くっついて寝れば。」

「くっつくって…」

「ほら、早く、耶恵。」

とっととベッドに入った克実が掛け布団のふちを持って耶恵を呼ぶ。

ベッドに入りながら、耶恵はぽつりとつぶやいた。

「しょうがないなぁ、克実はいつになったら姉離れするのか、」

「いつまで経ってもしないんじゃない。する必要もないし。って言うか、もっとくっつきたい。」

そう言うと克実は背中側から耶恵を抱きしめた。


他の家でも仲がいい姉と弟はこんなもんなのだろうか。二十歳を過ぎても。

耶恵は伸哉とも仲がいいつもりだが、一緒に寝たのなんて小学校の頃が最後だったと思う。それも3人で。やはり克実は世に言う過度のシスコンだ。

一体克実は今どんな表情をしているのか、振り返って確かめようとしたときだった、それまで腹部のあたりにあった手が、上へあがってきたのは。

「ちょっと、何してるの克実。」

「何って、大好きな耶恵のおっぱい触ってるんだけど。」

「だから、それは彼女にしなさいよ。」

「別れたから、ムリ。」

「色々あったって、それ?」

「まあ、色々の一つではあるけど、それはそんなにダメージない。」

「そういうもの?」

「俺にはね。それより、気持ちいいんでしょ。ちょっと息乱れているよ。それに、乳首立ってるし。」

「もうやめてよ。」

「何で?」

「何でって、そんなこと、うんん、」

「ここ、濡れてるのに?気持ちいいんでしょ。一緒に寝てくれたお礼。イカせてあげるよ。」

こんなことは弟が姉にすることではない。けれども変に暴れて物音をたて、伸哉、延いては両親にバレでもしたら…。

「ね、克実、皆にバレたら、大変だから。」

「耶恵が黙っていればバレないよ。それともよすぎて声でちゃう?それなら塞ぐけど、口。」

かわいい弟とは言え、克実は男なのだから当然だった、力で簡単にねじ込まれてしまうのは。


その日耶恵は自分の指以外で初めてイッた。そしてこんなに浅黒く、大きく、上を向いた男性器を初めてみた。

一緒にお風呂に入っていたころとはまるで違う。

「俺もイカせて。耶恵の舐めてるだけど、もうガマン汁が、」

切なそうに目を細めて、懇願する克実。耶恵が初めて見る弟の表情は、官能的などという言葉では片付けられないほどだった。けれどイカせてと言われても…


「ゴメン、そうだよね。処女の耶恵には…じゃあ、お店のお姉さんみたいなことさせちゃうけど、太ももに力を入れてしっかりくっつけて。」

耶恵のしっかり閉じられた太ももの間に、克実は先端を何度かつけこじ開けるようにそこに入ってきた。

「ゴメン、耶恵、こんなことさせて。何をされても、太ももの力は絶対ぬかないでいて。」

克実は耶恵に太ももで自分の男性器を挟ませ、激しく体を動かし始めた。両手は両乳房を握り、指先はしっかり乳首を摘みながら。克実から漏れる声に艶が帯びる度、何かを食いしばるように乳首を摘み上げられる。

「耶恵、声、ダメだよ。ね、塞ぐよ。」

知らず知らずのうち漏れていた声を塞ぐように、克実が深い口づけを何度となく耶恵にする。それから少しして克実は果てた。

耶恵の太ももの間に大量の精を放って。


「ゴメン、シーツ、どうしよう。」

「明日洗うから、大丈夫。」

「ゴメン、俺、」

「もういいよ、謝らなくて。色々あったんでしょ。」

「違う、そんなんじゃない。耶恵が好きなんだ。なのに、見合いなんかするから。」

「克実、わたしも克実は好きよ。でも、それはかわいい弟として。克実もきっと姉としてわたしが好きなんでしょ。」

「そんなふうに話をまるめようとすんなよ。この状況で姉として好きなんてありえないだろ。誰と付き合っても上手くいかないのは、耶恵のせいだよ。今だって、このままやっちゃいたいって思っているし。それに、さっき言った俺と家を出ようって本気なんだけど。」

克実のいきなりの告白は正しく青天の霹靂だった、耶恵にとっては。克実にちゃんと世の道理を伝えなければいけないのに、狼狽えてしまうほど。

「俺と耶恵の両親が全く同じだってことも、近親相姦って言葉の意味も知ってるから。」

狼狽える耶恵とは対照的すぎるほど、克実は落ち着いていた。

けれども、久しく見たことのなかった弟の涙は頬をつたっていた。


克実は今までどんなに苦しかったのだろうか。もっと自分が頼れる姉ならば、とうにその気持ちを伝えられ二人の関係を正しい方向へ導いていたのかもしれない。

耶恵は自分の頼りなさ、弱さが腹立たしかった。でも今は悠長にそんなことを思っている場合ではない。と思ったときだった、耶恵は子供の頃泣いていた克実にしたように抱きしめていた。

結局二人はそのまま全裸で抱き合うように寝てしまったのだった。



見合いから5日程たった木曜日、父は上機嫌でいつもより早く家に帰ってきた。と言っても、既に9時過ぎだったが。


「耶恵、田辺さんがもう一度おまえに会って話をしたいそうだ。」

「え、わたしに…」

「土曜の11時に迎えにいらっしゃるので、それまでに出れるようにしておきなさい。」

田辺尚哉も父も耶恵の予定など聞いてはくれない。言われることは全て決定事項ということだ。

木曜のこんな時間だと言うのに、友達に土曜の約束を断らなければいけないことに耶恵は小さなため息をついた。




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