絶対条件

 



大人の玩具の存在は勿論知っている。けれど間近で見たのは初めてだ。しかもグロテスクな見せられ、事もあろうかそれをお尻に入れると尚哉は言っている。

限界だった。

嘘をつき通せないと思った。

そして嘘がバレたときに受ける制裁が恐ろしかった。

肉体的な暴力なら十分慣れている。けれども性的暴力には慣れていないのだから。

父のお手つきだったら興醒めしてセックスをしないと思ったからの嘘。でも尚哉はそれならそれをネタに父を陥れようとしている節がある。更には父の性的玩具を侮辱してあざ笑おうとも。

尚哉が抱く邪な思惑が叶わないとき、彼はどうするのだろうか。


「言わないのか、それともアナルファックがしたいのか、これで。」

男性器を模したバイブをひたひたと頬に打ちつけながら、尚哉が笑みを浮かべる。

「もう、許して。」

「口の聞き方がなってないな。」

「うっ、もう、許して下さい。嘘なの、わたしは処女なの、」

「聞いたか、こいつ俺に嘘をついたって言ったのか、今。」

「はい、カメラでもしっかり記録しております。」

「どうするかな。」

「それなりの制裁を与えるべきかと。耶恵さんが未通なら尚哉様と結婚するのですから。」

「しかし処女というのが本当かどうかも分からないだろう。嘘をつくような女なのだから。」

「はい。二度と尚哉様に嘘をつかぬよう不本意ではありますが、徹底的に懲らしめた方がいいかと。」

「そうだな、徹底的にか。」

乳首にローターをとめる為に貼られていたテープが勢い良く尚哉によってはがされた。解放とテープがはがされる刺激に耶恵の体はまな板の上の魚のようにピクリと跳ねた。


「さて処女かどうかを調べるのは楽だな。射せばいいだけだ。しかし制裁は…、俺の妻なんかじゃなければ中出し付きでまわして、辱めたうえ、肉体的にも二度と嘘がつけない罰を与えればいいだけなんだが。こんな短期間での調達じゃ、こいつが一番マシだったんだからしょうがない。」

『調達』、『一番マシ』、分かっていたが、処女だと判明してしまった時点で耶恵はもののような扱いで田辺尚哉の妻にならなくてはいけないということだ。


「…隼人カメラをもう一つ出して、それぞれを横と足元に固定しろ。それが終わったら、おまえも脱いでいい。久しぶりに褒美をやろう。咥えさせてやる。耶恵、隼人は射すのも射されるのも好きなヤツなんだ。言っている意味、分かるよな?処女だったら、今まで貞操を守ってきた褒美に色々な経験のある隼人を夜の教育係にしてやろう。」

「尚哉様、それでは。」

「ああ。処女だったらだが、こいつが苦しむくらい大きくしていいぞ。おまえも良く見ておけよ。フェラくらいまともに出来ないと、俺が困る。」


耶恵は差し詰め昆虫標本の蝶のようだった。先程のローターによる責めで体は重くベッドに沈み、ピクリとも動かない。だから無駄に三つも積み上げられたふかふかの枕で嫌でも見えてしまう光景から目を背けようにも背けられなかった。

体が動かないのには、他にも理由があった。既に、体も心も恐怖が支配してしまっていたのだ。目を背けたら何をされるのか…。尚哉がこれから本気で耶恵と性交渉を持とうとしていることへの覚悟は出来ている。きっと乱暴にされることも予想がつく。

けれど…その乱暴さ加減がセックスの経験すらない耶恵には全く想像できないのだ。未知の領域が耶恵の中で恐怖を増長させ、目を伏せることすら出来なくさせている。


「隼人、悪いな、今はここまでだ。嘘をついてまで結婚から逃げようとしたあの女に中出しするっているのはどうだ?」

「それでは折檻にならないのでは。尚哉様のお情けを注いでもらえるなどということは。」

「耶恵、良く見せてやろう、おまえがこれから下の口で咥えるものを。」

尚哉は耶恵の両胸をはさむように膝立ちし、隼人によって大きくされたペニスに手を添えた。目を逸らさないのではなく、既に目を逸らすことが出来ない耶恵を面白そうに見ながら。

「気が変わった。まずはマーキングだな。隼人、扱け。」

隼人は耶恵と尚哉の横に来ると、尚哉のペニスを勢い良く扱き始めた。尚哉からは色気の漂う小さな呻き声が漏れ始める。

呻き声と呻き声の間隔が狭まったときだった、尚哉が自らの手で再びペニスを握りしめ精液を耶恵の顔と胸の辺りに放った。

「動くな、そのままでいろ。」

耶恵にはそう命じ、隼人の耳元で何かを尚哉は囁いた。再び隼人が精を放ったばかりのものを口に含み、味わい始める。時には舌を伸ばし、舌先を溝に滑らせながら。妖艶な光景と、鼻につく独特な男の匂い。隼人はまるで尚哉のそれを崇めるようにしゃぶり続けた。


「もう、いいだろう。」

その言葉に隼人は名残惜しそうに口をはなし、ベッド横のカメラを手に携えた。

「おまえにも味あわせてやろう。口をあけろ。」

隼人と同じことをさせられるのだろうか。恐怖で動かなくなった体が、今度は小刻みに震えだした。

「もう一度だけ言う、口をあけろ。」

尚哉の目は笑っているようで、とても怖いものだった。耶恵は恐る恐る閉じていた唇をそっと離す程度に口を開けたのだった。

尚哉の人差し指が頬についているであろう精液をゆっくり掬う。

「よく味わえ。」

「うぐっ、うっ、」

「ちゃんと美味そうに味わえよ。これからおまえの好物になるんだから。ほら、」

尚哉は何度も精液を掬い、耶恵の口に運んだ。口の中は青臭い何とも言えない味で一杯になり、時折気持ち悪さがこみ上げてくる。

「泣く程美味いのか?答えろ。」

美味しいはずはない。現に何度も嘔吐いているというのに。

嘘をついてはいけないのであれば、答えは決まっている。でも耶恵は何となく分かってしまう、尚哉が求めている答えを。嘘をつく事と、言うべきことを言わない事、どちらの罪が重いのだろうか。

どちらが受ける罰の方が辛くないのだろう…。

「答えろ、」

「…初めて、味わったので、おいしいかどうか、よく分からない、です。」

「そうか、じゃあよく覚えておけ、味を。これが美味い精液だ。おまえのご主人様のな。」

「うっ、うぐっ、」

残酷にお尚哉は更に耶恵の口の中に精液を運んだ。

「そろそろ、嘘をついたことへの罰を与えるか。前戯なしでこれをぶちこんでやるよ。本当に処女なら少しは罰になるだろう。そして最後にたっぷり子宮に注ぐからな。」

「あぁ、ううぅ、痛い、やめて、いやぁ、あ、」

尚哉は言葉通り、何の前戯もなくいきなり耶恵の処女を奪った。部屋に耶恵の叫びが響こうと、激しく腰をふり。どちらが嘘だったかなど、その証を見る必要もないほど耶恵の叫びは事実を物語った。

けれど、どこまでも尚哉は残酷だった。涙を流しながら叫ぶ耶恵、処女だった証がつたう太もも、シーツの染み、尚哉との結合部分を隼人にしっかりと映像に収めさせたのだ。


「父親に可愛がられたっていうのが嘘だったんだな。そんなに結婚が嫌だったのか?それとも俺との結婚が嫌だったのか?」

耶恵は体も心もくたくただった。何も考えられない、何も言うことができないほどに。

「まあいい。何を嫌がろうとおまえは俺と結婚するんだ。処女だったんだから。」

それからどんなに泣こうと、意識が薄れようと、尚哉は耶恵を抱き続けた。再びこの部屋に来客を知らせるベルが鳴るまで。


「尚哉様、リカが来たようです。」

「もうそんな時間か。連れてこい。」

耶恵は下半身が自分のものであるのに、まるで他人のもののように思えた。いや、そうであって欲しいと願ったのだ。尚哉と関係を持ったのは、耶恵ではなく誰か他の人であって欲しいと。

「おまえに楽しいものを見せてやろう。少し休ませないとガバガバになって、使い物にならなくなるから丁度いいな。」

少し休む、ということは尚哉は再び耶恵を抱くということなんだろう。


「尚哉様、リカを連れてきました。」

誰も服を着ていないというのに、もっと言ってしまうと男女が絡んだ後だと分かるであろうに、リカという女性は顔色一つ変えることなくそこにやって来た。

「リカ、この女は俺の妻になる女だ。」

「はじめまして。柿沼リカと申します。」

「耶恵、挨拶くらい出来るだろう。」

「あ…、」

耶恵は言葉を忘れたかのように、何も言えなくなった。自己紹介をすることは、尚哉と結婚することを承諾したことになるからだ。

「耶恵様とおっしゃるのですね。尚哉様はお強いからきっと言葉も出せなくなってしまわれたのでは?」

リカの言葉に耶恵は小さく頷いた。

それは何故か分かってしまったからだ、リカが助け舟を出してくれているのが。


「耶恵、リカは今の会社での俺の部下だ。仕事においては優秀だけれども男を見る目はあまりない。だから、今、こんななんだが。」

尚哉の言葉にリカの瞳は深い闇を抱く。今までの境遇が故だろうか、その闇を耶恵が見抜いてしまうのは。それとも、闇が深すぎて気付かずにはいられないのだろうか。

「着替えて、隼人を楽しませてやれ。隼人、おまえも辛いだろ、見ているだけじゃ。今、この瞬間からリカをくれてやろう。」

「…はい、ありがとうございます。」

これから何か、それはリカににとってきっと悪いことが始まると直感的に耶恵は思った。



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