絶対条件

 



女性の乳首を舐めるなどという経験を耶恵は持ち合わせいたなかった。

それでもやらなくてはいけない。他に道がないのだから。


耶恵の頭にあるのは、克実がしてくれたことが気持ちいいということ。それならば、同じ方法をリカにして、尚哉が言うところの乳首を立たせるという状態にするしかないように思える。現に耶恵の乳首はそれで立ってしまう。

耶恵は克実が自分にしてくれたことを思い出しながら、リカの乳首、乳輪との境目、更にその周りを舌で丹念かつ優しく舐め始めた。

「あぁん、耶恵様、あ、いい、そんなに、あ、」

「いい眺めだ。耶恵、おまえ、女が好きなのか。せっかく楽しんでいるところ邪魔して悪いが、本来の目的をちゃんと果たせよ、そろそろ。噛め、きつく。」

あまり苦痛を与えないよう、耶恵は軽く歯を立てた。先程、自分が噛まれたばかりだ、その痛みは良く分かる。

「それで噛んでいるつもりか?」

「耶恵様、どうか、気になさらず、強く、どうかリカに折檻を与えて下さい。」

リカの声には切実さがこもっていた。耶恵が手加減すれば事はもっと悪い方向へ進むということだろう。

耶恵は心の中でリカに謝りながら立てる歯に力を込めた。


「あああ、んっ、」

痛みからなのだろうか、へたり込んでいたリカの体に力がこもる。けれどもリカは玩具をはさみ続けた。

「いい子だ、今度はちゃんと堪えたんだな、リカ。もう抜いていいぞ。」

その言葉に玩具はベッドに落ちた。

そんなリカに休む間も与えることなく尚哉が言った。

「玩具よりは本物が欲しいだろ、乗れよ。」

「ですが、耶恵様が、」

「いつから口答えするようになったんだ、おまえは。隼人、おまえもぶち込んでやれ。」

「…はい。」

尚哉の指示に隼人は返事をするものの、微妙な歯切れの悪さを耶恵は感じた。横では小さな声でリカが『申し訳ございません。』と呟く。それは尚哉に口答えしたことへなのか、耶恵に対してなのか…。耶恵は自分に対してならば気にする必要はないと言いたかった。

正直既に正常な判断力も思考もストップしてしまっている。隼人が自分の性器にコンドームを被せ、何やら念入りに塗っている光景すら目を逸らすことなく見れてしまう程。

「あん、、う、」

尚哉との性の営みに隼人が加わると、リカはより大きな、そして苦しそうな声をあげ体をしならせた。これが同時に二人の男性を受け入れる行為、耶恵は現実をそのまま表現する言葉で頭の中にしまっていった。


リカの表情は時折険しくなり、苦しんでいる様が伺える。その表情が見えているだろうに、尚哉がリカをつくスピードは速さを増すばかり。それどころか隼人にももっと激しくつくよう命令している。

「う、もう、壊れる、んん、」

「いいぞ、リカ、もっと締め上げろ。」

「いくぅ、ああ、も、いっちゃう、尚哉様、あ、」

誰がどう果てたのかは分からないけれど、リカは尚哉の体の上にそのまま傾れた。

「近い未来の奥さん、余興は楽しんでいるか?折角だからもう一つ、楽しいものを見せてやろう。」

尚哉は皮肉たっぷりの口ぶりで耶恵にほくそ笑んだ。

虫の息という言葉があいそうなリカを、尚哉は自分の体から引きづり下ろし仰向けにした。一連の動作に優しさ等というものは勿論のこと、一欠片の労りもなかった。


「少し口で喜ばせて、後は指で吹かせてやれ。。」

「はい。タオルを用意してから取りかかります。」

隼人は持ってきたタオルをリカの腰辺りから下に敷くと、赤い舌でリカの秘部をなぞり始めた。あんなに力なくベッドに沈んでいたリカが、まるで電流を流されたかのように、小刻みにぴくぴく動き始める。尚哉の顔が秘部により沈んだ頃には、リカから嗚咽にも似た喘ぎ声が漏れだした。

「耶恵、いい子だから、リカの乳首をさっきみたいに吸ってやれ。」

ずっと恐怖を与えられていた尚哉が発した”いい子”という言葉の威力は甚大だった。気付かないうちに、体同様心も落ちてしまっていたのだ。耶恵は言われた通りにピチャピチャとリカの乳首を舐めたり吸ったりを繰り返し始めた。


「あん、うう、あ、」

そんな耶恵に尚哉は後ろから指を差し込んだ。

「リカが羨ましいのか、こんなに漏らして。」

乳首から口を放して、悶えながらも耶恵は『羨ましいです。』と答えていた。

耶恵も気付いていないだろう。もし、今、先程同様精液を味あわされて『美味いか』と質問されたら『おいしいです。』と答えてしまうことを。

返事をし、耶恵が再び乳首に強く吸い付いつくと、リカがより一層大きなよがり声をあげ果てた。いつの間にか指で弄られていたあそこから勢いよく何かを出しながら。

「隼人がタオルを敷いた理由が分かっただろ。リカのこの潮吹きじゃあ。隼人、休ませるな。そろそろ新しいご主人様もぶち込んでやれよ。俺がいいって言うまでな。」

耶恵とリカは既にボロ雑巾のようなのに、それぞれの男にそれからも攻められ続けた。バイブ、ローター、リカに至っては意識が遠のきそうになるとムチで打たれたり、お尻に何かを埋められたり。

耶恵はどれだけ猥褻な言葉を言わされただろう。そして、何度イカされただろう。これが耶恵が受け入れなくてはいけない環境なんだろうか…尚哉と尚哉による恐怖に支配される世界が。


遠のく意識の中、耶恵は何かで見た地獄絵図を思い出していた。地獄からは出れないのに逃げる人々。そして様々な地獄。悲しいかな、その中の一人に自分を重ねたことを覚えている。

逃げても出れない。だから”その時”を待った。克実に言ったように、今置かれて状況から円満に抜け出るには父が決める相手と結婚すること、そう思っていたから。けれども地獄絵図の中の逃げ惑う人々と耶恵は本当に同じだった。仮に違う所へ行っても地獄は地獄。火の地獄なのか、針の地獄なのか。そこにいたからそれしか知らない。全体像を見ていなかった。耶恵には神田家という地獄の次に待っているのは、田辺尚哉ということだ。



「耶恵様、そろそろ目をお覚まし下さい。」

心配そうな表情のリカが耶恵の瞳に映った。

「リカさん、あの、」

色々なことが頭の中にあるというのに、耶恵の口からは見えた人物であるリカの名前と”あの”という言葉しか出てこなかった。

「お二人はラウンジでお話をされていると思います。耶恵様はシャワーをまず浴びて下さい。その間に軽食と飲み物がちょうど運ばれると思いますから。」

知りたいのは二人がどこにいるかではない。本当はもっと知りたいことがあるように思える。

けれど今はリカが提案してくれたようにシャワーが優先事項ということは、今の耶恵の頭でも納得いった。



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