楽園のとなり

 

36


同じ性癖の持ち主は磁石の同局どうしが反発しあうのと同様うまくいかない。それは頷けると雅徳は思っている。双方が縛られても、ムチを持ち合っていても確かに先には進まない。

雅徳は響子の言葉の端々、先程の姿を思い出して、セックスにおいて響子はMの要素が強いと感じた。だから発する言葉の中に命令的要素を含めればちゃんとそれにしたがうだろうし、そこに疑問を持たない。

亜樹も気がついているだろうか、そこに。いや、レイプからのスタートを少しでも回復させるために、ただ優しく接しているのかもしれない。行為そのものへの強弱はあったとしても。


動きが止まってしまった響子の手を雅徳は自分の方へ手繰り寄せると、指を一本づつ口に含み愛撫を始めた。時には指と指の谷間に舌をはわせたり、指先を唇で挟んだりしながら。響子の視界にわざと赤い舌が何をしているのか見せつけた。

それを目の当たりにしている響子の目には、おそらく欲望が浮かんでいることだろう。背中を押してあげればいいだけど、その欲望を表に出すには。


「この手なら出来るから、やってごらん。」

手への愛撫だけで頭がぽーっとしてしまった響子は、雅徳の言葉を当然のことと頷き、そこに手をかけた。響子のその官能的な表情は、雅徳のペニスに再び力を与える。

響子をいかせた時程まではいかないが、頭が上へ向かい始めた。勿論その様は、響子の目にもしっかり映っているだろう。下ろされたトランクスの方向へしなったものの、一定のところまで解放されると勢い良く反対方向へはじけた。


ペニスの動きに合わせ、響子の顔が微かに動く。凝視されるということは視姦されているようにも思え、雅徳のペニスは更に堅さを増す。

「触りたい?」

「あの、ううん、」

「じゃあ舐めたい?」

確信はない、けれども亜樹は響子にフェラチオまでは教えこんでいないように思えた。

「知ってるだろ?フェラチオくらい。」

「あの、、、」

「教えて、知っているかどうか。」

…名前と行為がどういうものかくらいは、」

「やってみたい?」

雅徳は自分の手で緩やかに根元をしごきながら響子に質問した。

「あの、わたし、したこともないし、やり方も知らないから、」

「じゃあ、教えたらちゃんと出来るんだね。教えてあげるよ、おいで。」



最初がああだっただけに、その後亜樹が与えるだけのセックスをしていたのだと、雅徳の男性器に舌をはわせながら響子は理解した。

大学時代、友達が得意げに彼氏を口でイカせたとか寸止めして射精をお願いさせたなんて話を飲み会の時にしていたが、響子にはそれはとてもハードルが高いことに思える。

今こうしているのだって、羞恥でおかしくなりそうなのに。


「そろそろ歯をたてないようにして、口の中に入れてごらん。」

雅徳の声、話し方は不思議と響子の服従欲を刺激した。響子だって普通に性に興味を持っていたし、色々な話を聞いていた。それが、年齢を重ねていくと何故か興味よりは怖さが勝っていったのだ。怖いし、恥ずかしいことをするのに、雅徳の言葉は都合が良かった。まるで命令をされているようで。雅徳が上司だからなのだろうか、服従しなくてはいけないと思うのは。


命令ならば従わなくては…でも、口に入れた後はどうすればいいのだろうか。

口をそこから離して、雅徳を見上げると全てを見透かしているような目があった。

「大丈夫、口に入れたら後は本能に任せれば。響子が味わいたいようにすればいい。歯をたてないようにして、舌を絡めたり唇をすぼめながら扱くだけだ。」


雅徳の思った通りだった。優しく、ただしそこに命令を含ませれば響子は従う。今もあの響子が生まれて初めてフェラチオをしようとしている。それも一糸まとわぬ姿で、惜しげもなくきれいなヒップラインを雅徳の目にさらしながら。きっと本人は言われたことに精一杯で、いやらしく尻を尖らせて顎を上下させながら扱いている姿をみせているとは知らないだろうが。


「とってもいいよ。」

命令に従えたら、ちゃんと褒める。そうすれば次の命令にもきちんと従う。

部下との恋愛は確かに難しいが、響子に対して上司という立場を築いたのは今後の利点となるだろう。

褒められることにより、響子は更にくわえこもうと努力する。時には苦しさで嗚咽をもらしながら。その響子の懸命さと嗚咽による微かな振動は、どんなテクニックよりも勝るものだった。

「そろそろいいよ、」

このままでは口の中で精を放ってしまいそうだった。

…やっぱり下手ですよね。」

「そんなことはないよ。すごく良かった。イキそうなくらい。」

「でも、その、イってはいないですよね。」

「響子のかわいい口の中ではだせないよ。」

「それじゃあ、その、こうした意味がないんじゃないですか、」

なくはない。今はまだ口内射精をしないだけだ。響子の意を尊重するなら、当分膣内に挿入はできないのだから。だったらフェラチオには慣れてもらわないと。そして、今のこの行為で響子の性における癖を理解できたのは大きい。

「意味なんて必要ない。それよりちゃんと出来たご褒美に響子を気持ちよくしてあげないと。」

「わたし?」

「そう。フェラチオがちゃんと出来たご褒美。」





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