気ままな10月、日曜日

 

もう一人



「じゃっま〜〜〜〜、玄関で何突っ立ってんの。」

脇田君のご両親が引き止めるなか、再度お別れの挨拶を交わしていると、もう一人玄関に現れた。

聞いていたこの家の家族構成から考えると、この人が脇田姉。そして、それは疑いようがない。何故なら、脇田君とよく似てる。あ、この場合は脇田君がお姉さんによく似てるのか。


脇田母が事情を脇田姉に話す。その間、脇田父はニコニコしている。ついでに、見送り&出迎えに来ていたマロンの尻尾は左右にプリプリ。


「なんだ、ちょうどいいや。ほら、見て、15時に売り出しのロールケーキ買ってきたからお茶しようよ。ね?」

脇田姉は百貨店によく入っているケーキ屋の紙袋を掲げて、最後の『ね』は私に向けながら微笑んだ。

微笑まれたら思わず頷きたくなる美人にしてやられた。そして、その脇田姉に促されるまま私は再度脇田家の中へ入ってしまった。


途中、脇田姉が脇田君を小突いて『お礼はまた今度でいいから』と言っていた。もしかして、脇田君はこのロールケーキが大好きなのかも。


けれど、リビングテーブルの上に置かれたケーキにはまるで階級があった。

厚みのある二つ。薄い二つ。そして、その中間サイズの一つ。薄い二つにいたっては、更に階級があった。超薄級は脇田父の元へ。薄級は脇田君へ。

ミドル級は脇田母の元に落ち着き、残り二つは脇田姉と私。


あれ、脇田君ケーキあんな少しでいいのかな?


しかし、高級住宅街のこんな素敵なリビングルーム(しかも大きなテレビ付き)で、優雅に時間&個数限定のロールケーキを頂くことになるなんて…、思いもしなかった。


ケーキを食べながら交わした会話は私のことが大半。脇田母と姉はこれだけしかなかった時間なのに、私を既に葵ちゃんと呼んでいる。

そして、食べ終わると脇田君が痺れを切らしたかのように言った。

「これじゃあ、木内さんが恐縮しちゃうからあんまり質問攻めにすんなよ。」

「そんな、大丈夫よ、脇田君。私も楽しいし、」

「要、そんなにカリカリしないの。ま、要の言うことも一理あるから、少し上で休んでもらったら。」

「そうね、そしたら丁度夕飯の支度も出来るし。」

「あ、いえ、そこまでお世話になる訳にはいきませんのでもう少ししたら帰ります。」


成行上、脇田姉の提案である上(これは脇田君の部屋だったんだけど)で休むことになってしまった。


悲しいことに、女の私より脇田君の部屋は片付いていた。

少しすると、脇田母がハーブティを持って脇田君の部屋へ。

辺りを軽く見渡してまた戻って行ってしまったけど。


お茶を飲みながら、脇田君は俯きながら一言『ゴメン』と言った。

何に対して謝ったのかはよく分からないけど、とりあえず頷いておいた。

こんな時間もそれなりに楽しいと思える。



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