気ままな10月、日曜日
気ままな10月、日曜日
育む
21時には脇田君から電話がかかってきてしまう。
私から電話をかけたいのなら、脇田君のボタンを押すタイミングと私のボタンを押すタイミングを吟味しなければいけない。
ということは20時59分には私が電話のボタンを押すのが、絶妙なタイミングではないかと思われる。
20時50分から考えた今日の話す内容はもう清書の域を超えている。パーフェクトだわ。
電話をかけると、相手はすぐにでた。きっと、21時に合わせて電話をもっていたに違いない。こんなことで満足感を得ている場合じゃなかった。
「今日、私と脇田君は付き合っているのかって聞かれた。脇田君の保身の為にも、ちゃんと友達って訂正しておいたから。」
『別にいいのに。』
「ん?どうして?」
『忘れちゃった、俺が木内さんを好きなこと?』
「あ、お、う、…」
『言葉になってないよ。でも、なんとなく訳せる気がする。』
「ごめんなさい。でも、脇田君は友達になろうって。」
『じゃあさ、今、俺と木内さんって仲が良い友達、それとも適当な友達?』
「………、どうかな、う〜ん、前者?」
『どうしてそう思うの?』
今日は難しい質問ばかり受ける日だ。どうしてって…。
『理由があるんでしょ?』
「うん、まあ、たぶん。だって、私が脇田君に対して適当なつもりで接してないもん。だから、適当な友達じゃない。」
『そっか、ありがと。じゃあ、これからも仲が良い友達をより深く掘り下げていこ。でも、考えて、深く掘り下げたその先に何があるかを。そして、木内さんがどうしたいかを。』
21時10分、結局脇田君に沢野井さんが言っていた定義の意味を聞くことなく電話を切った。そして、脇田君から投げかけられた新たな難題。難題って字の如しね、本当に難しいお題だわ。
私くらいの年齢は日々難しいことに遭遇するものなのね。
脇田君の言うところの仲の良い友達を深く掘り下げた先にあるものって何?
信頼、友情…、でも、沢野井さんが言っていた定義もついでに考えてみると…。
駄目だ深みにはまる。
難しく考えないでストレートにいってみることにした。
脇田君は私を好き、理由は分からないけど。で、その上で友達関係を築き始めた。
私は知らないうちに脇田君を大切な人物だと認識している。
この二つの先にあるのは、なんだ簡単じゃない…、って、ちょっと待ってよ。
それって簡単だけど大変なことなんじゃない。