気ままな10月、日曜日

 

答え



中国映画っていうのもいいかも。それか、何年か前のカンヌで賞をとったフィンランド映画も捨てがたいな。

どうしよう。

そして、この扉の中に入ったときにどうしよう。

昨日までの経験から、脇田君はもう学校に到着していて、この中にいる…と思われる。。

目を合わせてから微笑んでみちゃったりする?無理、出来ない。そんな芸当私にはない。はぁ〜。とりあえず開けるしかないよね、じゃなきゃ遅刻することになるし。


おかしなもんで、散々悩んで開けたのに、目はその元凶を素早く捉えてる。

その上、相手の目線と合ったことを、自分なりに確認してからイソイソと席に向かってるし。


席につくなり、窓の外を見るのも忘れて深呼吸をしていると、折角落ち着いた呼吸を乱す人が隣に立っていた。

「おはよ、木内さん。」

「おはようございます。」

「今日、一緒に帰ろ。どうせ、同じ方向なんだから。」


そう言い残すと、脇田君は誰かの机に片足をぶつけながら去っていった。

そっかぁ、一緒に帰るんだ。……、定義…、仲がいい友達、男女、私は…。


いつもは先生が来るまで、空想の世界に浸るのが朝の日課。

だけど、今日は立ち上がって沢野井さんの席まで足が動いた。


「沢野井さん、ありがとう。分かったの。」

「え、なあに?」

「ごめんなさい、いきなり唐突に喋りだして。」

ちょっと沢野井さんが引いているのが分かる。そりゃあそうだよね、普段あんまり喋らない私が朝っぱらから突進してきて、突然話したら。


「あのね、分かったの。昨日、沢野井さんに指摘された定義の件。簡単だったの。私の知る限り、人と人の間にただの友達ってものはなかったの。大切な友達だったり、昔からの友達だったり、気心知れた友達だったり。だから、答えはなし。そもそもそんなものないんだから。」

「そう、で、要は?」

「え、」

「だから、その話の続きだと要はなんの友達になるの?」

「脇田君は、…ごめんなさい、昨日はあんなこと言ったけど、恋をするかもしれない今は友達。」

そこまで言い切って、周りの音があまりしていないことに気が付いた。


そして、沢野井さんが一言。

「聞こえた、要?これでチャラよ。」


何故か周りが静まりかえっていたせいで、私の発した言葉は脇田君にまで聞こえていたらしい。沢野井さんの席は脇田君の隣の隣の席だけど、きっとそこら辺の人全員には聞こえたはず。眩暈を起こしそう。


って、駄目よ、眩暈を起こしている場合じゃない。

私はまた、自分の席へ突進して、横のフックから荷物を持ち上げた。

今日一日、この空間にいるなんて耐えられない。


幸いにも隣の席はクラス委員の石綿君。彼に気分が悪いので早退することを告げ、生まれて初めてサボリを敢行した。


下駄箱まで来て、後ろから呼び止められた。

「今日は一緒に帰るって、さっき言ったばかりじゃん。」

振り返らなくても分かる、声の主は脇田君。

そして、私が今一番顔を合わせたくない人。


「木内さん、昨日、俺のことは仲のいい友達って言ったよね?じゃあ、軽々と俺の提案を無視したりはしないはずだよね。」

「でも、私、今日はもう帰るの。」

「じゃ、俺も帰る。それに、ちょうどいいから。木内さんと大切な話をしたくなってたから。」


生まれて初めてサボリはかくして、単独犯から複数犯へとなった。


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