気ままな10月、日曜日

 

あて



「木内さん、意味もなく早退、別名サボリってしたことある?」

「これが初めて。」

「その初めてって響きはぞくぞくする。」

「そんなこと言ったら、映画を男の人と見たのも、男の人のおうちに遊びにいったのも、男の人の部屋に入ったのも全部初めてだったんだけど。」

「そう。ありがと。ところでこれからどうする?」

考えてなかった。家に帰れるわけもないし。


「今日さ、木内さんと帰りたかったのは大切な話があるからだったんだけど、今からどっかで話さない?」

「どっかってどこ?制服姿だから、あんまり街中をうろうろするのはどうかと思うんだけど。」

「木内さんはまじめだね。でも、そんなことならうち来る?」

「脇田君の家?」

「そ。」

「でも、怒られない、サボってきちゃったのに。」

「大丈夫。うちにいるのは姉貴か母さんだけだから。」

どうしてそれで大丈夫なの?

「それとも、どっか行くあてある?」

「ない。」

「じゃあ、行こう。」



3日前にもお邪魔した脇田邸。開けたらやっぱりマロンが走ってきた。

そして、お台所のメッセージボードには『お友達と銀座へ行ってきます。夕方までには帰ります。』との文字が。このことから、脇田母がお出かけなのが容易に分かる。

そして、脇田君の口からは脇田姉が昨日は帰らず、今もなお、帰ってきた形跡がないことを知らされる。

即ち、またしてもこの家に二人きり。あ、ゴメン、二人と一匹。


今日はDVDを見るわけでもない。

そうだ、話って?

「木内さん、リビング行ってて、何か飲みもの持ってくから。ついでにつまむものも。」


リビングで待っていると、脇田君がついでに着替えてやってきた。楽そう。

「ゴメン、オレンジジュース、うちにはないから。」

そう言って、ミルクティを出してくれた。

「これも好き。」

「知ってた。」

そうだった、この人は私にストークもどきをしてたんだ。


紅茶を口に含み、マグカップをテーブルに置く。繰り返すこと数回。脇田君は何も話さない。困った。


紅茶はマグカップの1/5くらいになってる。私としてはずっと口を閉じていたいような気がするから、音を覚悟でつまむものと称してもってこられたゴマ煎餅を持つしかない。


バリッ。痛快な音だわ、これは。そして、おいしい。

でも、ずっとこうしている訳にはいかないよね。


「あの、脇田君、大切な話ってなに?」

「朝の段階では、帰りに言うことは何度も考えて台詞が出来上がっていたんだ。でも、今はちょっと状況が違ってきていて…。」

なんだか、脇田君にしては歯切れが悪い話し方だ。

「じゃあ、また今度にする?」

「いや、それも困る。今は追い風のような気がするから。」

「追い風?今は無風よ。」

なんでか分からないけど、微笑む脇田君。

すごく色っぽい。これじゃあ、私の恋するかも指数が上昇しそう。


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