気ままな10月、日曜日
気ままな10月、日曜日
本編
単館系の予告編は凄く大事なのよね。なんせ、他の単館分も含めて予告編がながれるから。でも、残念ながら今日は…集中できない。
言ったら放してくれるかな。
さっき包み込まれた手は、そのまま。困った。
何だか言葉に出して言うのは恥ずかしいし。
『手を放して』なんて。脇田君にしてみれば、ただ手を掴んでいるだけで大意はないだろうし。
そんなことを考えながら、当の本人はどんな顔をしているのかと隣を見遣ってみれば、至って普通っぽい。
暗くなった今、お財布からお金をだして渡すなんてことしないのに。きっと、それを脇田君も理解してそのうち放してくれるだろう。ここは我慢。でも、どうして私が我慢?
本編のタイトルを見ながら思う、手はいつ放れるのだろうかと。
それとは別にこの行為は脇田君にとって大したものではないのかもしれないという考えも過ぎる。だとしたら、こんなことをグダグダ考えている私は馬鹿らしい。
手が包まれていることで感じたこと。
それは、他人の手は自分の手とは違うという当たり前のこと。皮膚の感じ、体温、それから、それから…。
そりゃあ、今まで彼氏がいなかった私でも、運動会のダンスとかで男の子の手は触ったことがある。でも、そのときはこんなに長くないし、次から次へと変わるから、一人の手をこんなにも味わったことはなかった。
異性と手を繋ぐことに憧れて、自分の右と左を繋がせてみたこともあったけど、それとは全く別感覚。
結局、本編が終わって明るくなってもその手は暫くそこに。
本編の内容?−−−そりゃあもう、凄くよかった。目頭がじんわりと熱いもの。
私の利き手は右だから、いい加減放してもらわないとハンカチが出せない。
そんな顔を流石にクラスの人に見せられなくて、俯き加減でいたらようやく手が解放された。良かった。そうか、映画が終わったから帰るのね。
ハンカチを出そうとモゾモゾしてたら、名前を呼ばれた。
呼ばれたらその方向を見てしまうのが、私の常。
「どうぞ。」
「あ、」
「なんか、すぐにでてきそうにないから。あ、ちゃんと洗ってあるから。」
この状況で、目の前のハンカチを叩き落として自分のものを出す勇気は私にはない。ありがたく拝借。そして目のあたりから顔を覆ってしまえば、脇田君に見られることもない。
どうでもいいけど、傍目にはどう見えるんだろ?ただのクラスが同じ人同士に見えるのだろうか?
そうそう、これは言っとかなきゃ。
「ハンカチはちゃんと洗って返します。飲み物といいお世話になりました。」
サヨナラの挨拶に聞こえたかな?
「別にいいよ。気にしないで。それより、入れ替えだから出ようか。」
えっ、待って、それって一緒にここを出るってこと?でも、どうして?