気ままな10月、日曜日

 

食後



男女の食べる速度はぜんぜん違う。今、目の前では、脇田君が私の食事が終了するのを待っている。ここで、パンをちびちびちぎり始める技術は私にはない。

最後の一切れを口に放り込み、咀嚼を始める。ついでに、今日の流れも脳みそに咀嚼させる。


脇田君は私が好き教室でも何の気なしに見ている聞こえてくる話はこっそり聞く今日この単館に来ることを知った時間を合わせた私を発見意を決して声をかけるさりげなく隣に座る楽しい会話をする(これは失敗したとのこと)映画の後の食事を誘う(成行上成功)自分の気持ちを伝える(順番がくるう)


食事を始めて、食後に辿り着くまでに得た情報からするとこんな感じ。


「木内さん、木内さんは今、誰か好きな人とか気になっている人いる?」

「え、あ、う…」

「あ、もしいたら、名前までは言わなくていいから。そこまで立ち入る気はないから。それに、聞いたら最後、きっとそいつにあからさまな態度をとる自分がいそうだし。」

「好きな人は特にいません。気になる人は…。」

しいて言うなら、いきなりこんな展開に陥れられたあなたよ!!!、とは流石に言えないから、なんとなく首をかしげちゃおう。


「そんな可愛い顔しないでよ。襲いたくなるから。」

「は?」

「だって、木内さんの表情って俺の好みそのものなんだから。いつの間にか、あの窓際の席でまどろんでいるときの穏やか表情とか、本を読みながら微笑んでいる顔を目で追ってた。」

「不気味じゃない?本読みながら笑ってたら。」

「そんなこともないよ。木内さんの表情は嘘がつけないだけだから。」

そんなもんなの?脇田君ってちょっと不思議。


「ところで、今日は俺すごい気合入れてここまで来たんだけど。」

「気合?」

「そ、木内さんに告白して、答えまでもらおうと思って。」

「答えって?」

「だから、俺の気持ちに応える気はあるのかないのか。」

「脇田君、ごめんなさい。同じクラスだけど、私はあなたのことを知らなさ過ぎる。それに、さっき脇田君の気持ちを聞いたばかりで、どうしようもないわ。」

「木内さん、じゃあ、友達になろう。今までは俺たち、同じクラスってだけだっただろ。」

「ともだち?」

「そ、授業のときに思ったことを話したり、家であった何気ないことを話したり、ついでにお互いの好きなことを話したり。」

「でも、脇田君はクラスの皆に人気があるからそんなことできない。」

「分かった。じゃあ、電話でも、メールでも。なんでも話して、困ったときにはお互いに考え合える友達になろう。」


カフェから駅に向かう長い道のり、隣を見ると脇田君がいる。

やっぱり、なんだかうまく脇田君に丸め込まれたような気がする。

なんせ、携帯の番号とメアドを交換したわけだから。でも、悪い気はしない。

とっても不思議。


「木内さん、今は友達でなんて言ったけど、本当は嫌なんだ。できれば、一番近い存在になりたい。」

改札で別れるときに、脇田君は耳元でそんなことを囁いた。今日の事といい、今の事といい、脇田君は私に自分と言う印象を深く残していったことは間違えない。


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