気ままな10月、日曜日

 

レンタル



今日は自分からかけてみようかとも思う。

操作は簡単。着信に対して返信、もしくはメモリーから呼び出せばいいんだから。


話す内容は?やっぱりDVDは借りられていたこととか、現国のときに昼寝しちゃったこととか、あと何があったっけ?うちのお兄に新しい彼女ができて、今日来たこととか?どれもぱっとしないなぁ。


あ!

あれこれ思っていたら、電話がかかってきた。

『木内さん、明日空いてない?』

「明日?」

『そ、学校帰りにうち来ない?』

「脇田くんの家?」

『そ、たまたま今日帰りに近所のビデオ屋に行ったらあったんだよ、例のやつ。木内さんがずっと観たかったDVD』

「ホント!」

『で、思わず他の人に借りられたら困るから、俺が借りといた。折角だから早く観たいだろうと思って。』

「行く、行きまーーーす。絶対。」

『じゃあ、明日一緒に帰ろ。』

「え、」

『俺んち知らないでしょ。』

ごもっとも。でも、説明してもらえば分かるかも?

『それと、うち住宅街で目印になるようなものがないんだ。だから、説明しづらくて。帰りに一緒に来てくれるのが一番かな。』

そっかぁ、DVDまで借りておいてもらって、そんな住宅街の道を説明させるのは悪いよね。

「分かった。じゃあ、学校の先の本屋で待ってるよ。」

『なんで、同じクラスなんだからそのまま一緒に帰ればいいじゃん。』

「う〜ん、それがね、なんかちょっと。なんて言うの、脇田君の周りにいる子達、嫌いじゃないんだけど、どうも…。」

『ま、いいや。深くは追求しないよ。じゃあ、本屋で。』


電話を切ってから気が付いた。脇田君の家に行くってことは二人きり?まさかね、お母さんとか、兄弟とか…、そう言えば脇田君て兄弟いるの?私って、毎日話していても脇田君のこと何にも知らない。

これって、友達の定義がなりたつのかな。そうだ、明日の帰り道は少し脇田君について学習しよ。



学校が終わって、私はいつもソソクサ帰る。別に誰かとどっかに行く用事もないし。残って何かする予定もない。

でも、今日は間違っても家へ直行してはいけない。

廊下側の脇田君の席を見遣る。脇田君の視線とぶつかる。

アイコンタクト…、だったのかな、今の。

私には、なんとなく『待ってて』と言われたような感じがする。

ま、いいかっ。どのみち待ってるんだから。



本屋で待つこと数分、脇田君が来た。

「うさぎ飼ってるの?」

「ううん、でもこういう雑誌見てると、なんだか飼っている気分になれるでしょ。うちには何にもいないから。」

私が持っていたうさぎの飼育雑誌をみて、開口一番脇田君が聞いてきた。

「そうだ、脇田君の家には何か動物いる?」

「犬がいるけど、大丈夫?」

「うん。好きよ。」

脇田君の顔が一瞬赤くなる。私、何か変なこと言った?

「じゃあ、行こっか。」

「うん。」


本屋をでると、学校帰りの人がちらほら歩いている。私は心の中で、同じクラスの人がいませんようにと祈り続けた。

なんだか、脇田君と一緒に歩いているところを誰かに見られるのは気恥ずかしいから。


脇田君の家と私の家はそんなに遠くなかった。同じ路線の途中駅。それが脇田君の利用する駅。

確かに住宅街。


連れていってもらっているのだから、さらさらその道のりを覚える気がない私は、脇田君のことを知るべくいろいろな話をした。


人を知るプロセスは何だか楽しい。

推理小説を読み出すと止まらなくなるのは、犯人を知りたいからだと私は思う。勿論その背景や人物相関図も欠かせない。

今現在私たちの周りで事件は起こっていない、だけど一つづつ脇田君を知るたびに、その先は知りたいし、ワクワクする。まるで、推理小説みたい。

私は今、脇田君を読み始めた。


back   next    index