気ままな10月、日曜日

 

DVD



「ただいま。」

ドアを開けて、脇田君が言う。ということは、家に誰かいてくれるということよね。

確かにいた。わんわん悦びの声をあげながら走ってくる犬のマロンちゃん。

ここまで来る間に、犬の名前はマロンちゃん、犬種はジャック・ラッセルテリアと説明はうけた。

ところで、他の住人は?お姉さんは?お母さんは?お父さんは?


脇田君はマロンちゃんとの再会を終了させ、私に振り返った。

「どうぞ、母さんが何か食べ物置いていったと思うから。」

「お母様とお父様は?」

「メシがてら買い物じゃないかな。今朝、そんなことを言ってたから。」

ということは、…この家には現在二人と一匹。あ、お姉さんがいるかもよ、ね。

「あのぉ、お姉様は?」

「さあ、不思議な生活している人だから。木内さんとこのお兄さんもそうじゃない?大学生って不規則っていうか、自由って言うか。」

確かに。うちのお兄も胡散臭い生活をしている。…、ということはやっぱり二人と一匹かぁ。


「何、心配?大丈夫だよ、とって喰ったりはしないから。それに、いつ誰が帰ってくるか分からない状況じゃ何にもできないよ。」

そう言って口角をあげて無言で笑う脇田君は今までのどの脇田君でもないような気がした。



脇田君のお母さんは何やら色々置いていってくれた。

何でも脇田君が今朝、友達が来てDVDを観る事を事前に伝えておいたんだって。

レンジで温めて、昼食を済ますといよいよ待ちに待ったDVDとのご対面だった。


脇田君の家は住宅街は住宅街でも、頭に高級が付く住宅街の中にあった。それに、リビングにあるのは大きな画面の薄型テレビ。この映画もうちのテレビに映されるより、この家のこの子に写してもらうほうがはるかに幸せだろう。


映画の始まりは、このタイトルとはイメージがちょっと異なる。お店の人が入れ間違えた?なんて思っていたら、画面が展開してそれらしくなった。

そこまでは、映画のイントロダクションに引き込まれっぱなし。

でも、不意に隣の存在が頭の中をうろうろし始めた。

恥ずかしいから、隣はみない。だって、この距離じゃあ、逆に隣をみるのはちょっと辛い。


映画館では、シートは一つ一つ区切られている。カップルシートなるものが世の中にはあるらしいけど、縁がないからそれの作りはわからない。

でもここは、リビングルームのソファ。だから、区切りなんかない。


でも、それがいいのかも知れない。

こうして、誰かと一緒に体温を感じながら、同じ時間に同じ映画を観て過ごすのも悪くない。


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