色づく11月、月曜日

 

伝える


葵がこのメッセージを書いたのはいつだったんだろう。

昨日、三時前には帰ると言っていた。今なら分かる、それは、きっと僕がこのメッセージを読むから。


『脇田君、10月よりも好き。

                  木内 葵』

   


たったこれだけのメッセージ。それでも、葵がどれだけ緊張して書いたか容易に想像がつく。


そして無意識のうちに電話を手にとっていた。


『もしもし、脇田君?』

「ありがと。」

『何、何が?』

「メッセージ。」

…』

「すごく嬉しい。」

『うん。』

「電話じゃなくて、今すぐあって、も一度言いたい、お礼を。」

…うん。』

「今どこ?」

『中庭で本読んでる。』

「帰らなかったんだ。」

『うん。』

「どうして?」

『分からない。』

「今から行くから、そこにいて。」




「ね、木内さん、エッチ小説でも読んでんの?、顔赤いけど。」

僕の声に顔を上げる葵は、11月の空の下一人で風にあたっていたせいで、頬から耳にかけてが赤く色付いている。

色白だから、余計に赤みが目立つ。


「寒くない?どうしてこんなところにいんの?」

…」

「答えて。」

「分からない。だけど、ここでこうしてたかった。」

「そっか、でもここにいてくれてありがと。それと、メッセージありがと。いつから?」

「何が?」

「俺にメッセージ書こうと思ったの?」

…分からないの。でも、気付いたら書いて、そして伝えたいと思ってた。私、もっと、なんて言ったらいいのか分からないけど…、もっと脇田君を、その、好きになりたい。」


寒さではなく、自分の気持ちを伝えたことで色づく葵。もう駄目だ。僕の限界はもう


「ここでキスしたら昨日みたいにむくれるよね?」

…そんなの当たり前だよ。」

小さな声で呟いて、更に赤くなる葵が本当に愛しい。


「ちょっと来て。」

文化祭のお陰で普段は人があまりいないようなところにも人がいる。

困った。


それでも、何とか人目につきそうにないところまで来ると思わず葵を抱き締めていた。


「ここなら誰もいないからキスしてもいい?」

聞くまでもなく、キスしてしまえばいいだろうけど、何故か聞きたかった。そして、YESという意思表示が欲しかった。


「この間みたいなのは、駄目だけど…、昨日みたいなのなら…。」

「昨日のはキスには入らないんだけど。ただの肌が触れただけだから。それに、この間みたいなのをしたら、葵がここで立っていられなくなるからしないよ。したいのは、」

そのまま僕を誘って止まない唇に自分の唇を押し当てる。


腕を深くまわしながら、腰から下へ少しづつ手をずらしながら優しく手の平でやわらかい尻を包み込む。

ばれてもいい、その手に力を入れて自分の体に葵を寄せる。


「あっ…、」

僕のペニスは葵の表情、唇を味わっただけで天を向いてしまっていたから、今の小さく発せられた声はそれに気付いた印だろう。


でも、口元を緩めてしまったのは間違えだったね。

構うことなく、奥へ侵入すると葵の舌は教えたわけでもないのにちゃんと応えてくれた。



「脇田君、トイレ行かなくて大丈夫?」

「え?」

「その、ちょっと前に教えてもらったんだけど、男の人の生理を…、」

「あ、大丈夫だと思う。辛いけど、少し興奮しないようにしたら落ち着くから。」

「そうなの?」

「ま、出すのが一番だけど。そうだ、うちで一番最初に見たDVDの中にあったエッチシーン覚えてる?」

……うん。」

「どうしてああいう風にできるか分かった?起つって言うけど、垂直に立つわけじゃなくて、腹に向かって起つから、だから立ったままでも、」

「そんな説明いいよ。」


「お、そろそろ戻らないと。本当はもっと一緒にいたいけど。後で電話するから、明日どうしたいか考えておいて。」




教室に戻ると望が近寄ってきた。

「ちゃんと届けてくれた?時間かかったみたいだけど。」

「俺宛てなんだから、間違えなく届いたよ。」

「そう?」

「あとさ、これからはもう変な根回しを望に頼むのは止める。」

「どうして?」

「彼女が自分の気持ちを伝えるのが自分なりに一生懸命だから。」






月曜、結局彼女の行きたい場所は映画館だった。相変わらず単館。


映画が終わるとまだ3時前だというのに、薄暗い空。11月も終わりに近づくと本当に日が暮れるのが早い。


「今日はありがと。あの映画は脇田君と一緒に見たかったから、嬉しい。」

葵は最近、不意に僕を喜ばせるのが上手い。


「どうかした?」

「あ、ううん。何でも。」

「それと、クリスマス、お母さんにOK貰った。」

「何て言ったの?」

「お友達のところでクリスマスパーティがあるって、それだけ。」

「それでよく大丈夫だったな。」

「私もよく分かんないんだけど、大丈夫だった。」

「ま、本当にクリスマスパーティだから問題はないよ。」

「うん。」

「どっかで何か飲んでから帰ろうか?」

「うん。」


手を差し出すと、少し間があってから葵が手を取った。

そして、本当に小さな声で呟いた。


「再来月、誕生日が来るんだけど、プレゼントに脇田君をちょうだい。どうすればいいのかはよく分からないけど。」

思わず立ち止まって、葵を見ると真っ赤な顔で俯いている。


「昨日のメッセージに本当はここらへんのことまで書きたかったんだけど…」

「分かった、でもそれじゃあ俺へのプレゼントになっちゃうと思うんだけど。それと、前にも言ったけど、葵が本当に受け入れたいと思ってからでいいから。間際になって怖気づいてもいいから。」


本当はそんな殊勝な気持ちというか、余裕はない。けれど、彼女のためなら待てる気がした。


「大丈夫。11月よりも12月よりも、もっと好きになっている自信があるから。」

葵はそう言って、顔を上げた。

その顔があまりにも綺麗で、いつになく僕の方が赤くなってしまった11月、月曜日だった。



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